尾行
高橋良幸

日が短い秋の夕暮れに気づいた
俺はあとをつけられている、
たしかに後ろで何かが擦れてリズムを刻んでいる
こうして気づくことはその音速と
歩くスピードの関係で起こる現象だ
俺は尾行者に通告してもいい
気づいている、というサインを音速に乗せてもいい
歩みのスピードを0にする
音速のコントロールは気にする必要がない

俺はあとをつけられていた、
ただし俺自身が背負ったカバンにだった
こうして気づくことはその自意識と
自意識過剰の関係で起こる現象だ
俺は尾行者に通告される
「お前は立ち止まってしまった、そうして考え込んでしまった、」
気づいている。というサインをまだ音速に乗せられない
わかっていた、迷うから歩いていたことを
迷いながら歩いていたのだ
もし立ち止まらなかったとしたら歩いていたこの先に
立ち止まった俺がついていけるのか

俺はあとをつけていくのか、どの俺の
あとをつけていくのだろうか、
立ち止まったまま暮れそうな寒空に耳を澄ましている
ふりしきる紅葉がカサリ、カサリ、擦れて
冬を尾行していくリズム、リズムと
いま歩き出すしかない音に似た鼓動、こどう


自由詩 尾行 Copyright 高橋良幸 2015-11-30 19:44:53
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