ホログラム
水町綜助





口を開けばこの世におわかれ
結局その理由がわからなかった
全て終わってしまった衛星都市で
いくつものぬけがらだけが
からからと丁寧に掃除されている
野良猫たちはそれでも
誰かに餌をもらって生きていける

輝きに背いて
地下にて
音の跳ね返る無数の点が繋がって
やがて線になり輪郭になった身体
煙のなかに逆巻く風の形のように
煙のなかに射し込む光線のように
それ自体形をもたず
空洞に刻み付けられた刺青は
幸福の姿をしていた
何かの祈りを口にせずに
ただ思い描いているだけみたいに
縁だけが取られて

空、だからいつだっていなくなれる
今どこにいるのかわからなかったのは
空、だから
何をうしなうのかわからなかったのは
空、だから
どうして消えていくことを求めるのかは
空、だからいまここにあることがたえられなくてそのせいだから

チャーリー、君はごく弱い酒と錠剤と、
ふやけた紙片が浮いたボルビック片手に
体にたくさんのものを持ち込んでいた
みんな見向きもしなかった雑草のクズでさえ
薄暗闇の中、くしゃくしゃな心を
アルミホイルの筒で
バスドラみたいに叩き鳴らして
空洞を内側からノックして
名前は呼ばずに誰かを呼び出すくせに
名を呼ばれても返事はせずに
反射させていたし
見知らぬ男は飲み込んで
好きなだけあばれさせた
そんなものが体を作っていると
信じたつもりになっていたのだろうか?
澱をいくども飲み込んだ僕は
幼稚だと思ったけれど、
暴虐みたいな風が吹いて巻き
破かれ捨てられた日めくりの中に
信じられないほど、事実あった。その日々は

「蛇がいて時々うねるの
体の中で太い胴を
こすらせながら
それはざらざらしてて
背中にとりはだを立たせるの
を、ベッドの上の天井から見ているの
は、私なの」

聞くのもうんざりする
丸めて捨てられ続けた言葉を
だれひとりとしてノートに書き付けず
ベッドのシーツに波打つ襞へ
注ぎ込むように呟けばドブになる
ただ太陽に背いて
肩越しに照りつける日差しに
油膜は虹色を現す波と波の干渉
水はただ、肌を合わせ、
油膜をうかべていることしかしなかった
どれほど熱したところで、
溶け合わないことは
性器の形からしてあきらかだったので
姿はどこにもなかったことを知った
溶けないから
浮かび続ける
浮かばせ続けた
干渉しないインコヒーレント
ジンジンと痛む傷が背中にある
胸に切りつければ
傷はなくなると
晴れやかに笑って見せながら
虹色をしていたきみの屈折率













自由詩 ホログラム Copyright 水町綜助 2015-11-20 17:07:31
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