未完のまま
イナエ


閉め切った窓のすき間を
すり抜けた時報のチャイムが
昼寝のベッドへ潜り込み
勝者を確信していた私の手が
上げられる前に目を覚まさせる
惜しいことをした

確かに戦っていたのだ
始めから負け戦だと分かっている試合に
挑むものなど有ろうか
戦って 戦って
例え勝ったと思っても
勝敗は手が上がるまで分からない

浮き石を踏んで滑落したり
落ち葉に足を滑らせ深い渓谷に落ちたり
思いもかけず手が滑って暴投したり
不意に現実が飛び込んだり
夢には完結はない

人生もまた
完結することがあるのだろうか
紆余曲折の行路にも
喜怒哀楽の登頂にも
その先には更に続く道があり
他の峰が見えてくる

再び挑む山峰
眼前から迫る落石を岩陰で避け
追ってくる蜂群を地に伏せてやり過ごし
足を掴む蛇を払い飛ばしても 
頭上から唐突に落下してくる火山弾や
桟道の曲り角に隠れているかも知れない熊
死は生の途上で唐突に現れる
それを人生の完結といえるのか



自由詩 未完のまま Copyright イナエ 2015-11-08 18:18:52
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