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はるな


娘が宝籤を撫でている。宝籤はおとなしい犬とは言えないお転婆だけれど、餅のようなてのひらが宝籤の黒い毛並のなかをせわしくいったりきたりするあいだはおとなしくしている。自分よりちいさいものだと分かっていて撫でさせてやっているのだ。
日曜日には秋桜をみにいった。風がおそろしいほど吹いていて、雲はひとつもなかった。五年ほど連絡のなかったひととメールをした。携帯電話に通知があると、娘がひらひらと合図をしてくれる。
そしてもうすぐ十一回めの31日はやってくるのだ。
心が体の入れものであるなら、わたしの体のどこかは十六歳でなければならないのだと考えていた。あるいはわたしの心がきちんと二十七歳になっているか。その入れものは溢れたり壊れたりしてはいけないし、ひとつでなければならないとも感じていた。そうしてわたしはいつも見失ってしまう。
娘がさかなのようにこころとからだをぴったりとくっつけて泳いでいくさまを見ていると、救われるような気持がした。娘がここに来てからは以前よりは生きているということを考えないようになった。


散文(批評随筆小説等) 00 Copyright はるな 2015-10-26 10:18:00
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