廃屋で待つ
本木はじめ


無季


救済の鐘はどこかで鳴るだろう朽ち果てたまま何を祈ろう


防音の音楽室で外見つつ鳴らない雨の音を奏でる


待ち合わせ場所は月面公園で浮き立つ心も足も体も


ゆるやかななみゆるやかにやみはらみひかりをゆっくりのみこんでゆく


青空が夜空に変わり逢い引きは逢い引き以外の何でもなくて


荒れ狂う木々を窓辺で見続ける猫もあなたもいない廃墟で




非道


かつての恋が廃墟だったとしたら白い鴉は何に喩えましょうか


窓辺には絵画のような草原と空が果てなく広がっていない


ベランダに鴉と鴉でないものがずっといるからずっと見ている


一筋の光おにぎり握るごと握り潰してしまおか悩ま な い


小洒落たカフェから出てくる美脚に時間が追い付かない




ゆうとうせい


ポツポツと夜を逃がして人々が今日もひかりと共に在る朝


懐かしい歌をあなたが口ずさみ思い出すひとあなたじゃなくて


僕はもう青空殺しの雨男レインコートに無数の涙


灯台は鬼 立ち尽くしたままぐるぐると永久に誰かを探し続けて


羽ばたきもしない翼をもぎとって果実のような過日を疎む




秋から冬


観覧車どっと外れて転がって巨人の指輪となる夢見てる


冬の午後ピアノの中で昼寝する誰かが弾くたび背中が痛い


誰ひとり降りないバスに揺られつつ歩道を歩く僕を見ている


旧姓の頃のあなたの面影が見え隠れする夜の校庭


美しい黒いコートで嘔吐するひとを見ている美しい冬


真四角なタイルが並ぶレストランだったのだろう廃屋で待つ








短歌 廃屋で待つ Copyright 本木はじめ 2015-10-17 16:39:50
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