秋に寄せる
橘あまね

かすかな気体が母音をまねて
つつましく
遠くの空をながめる子
瞳に映る季節、また季節
繰り返される慈しみ

陽射し
向こう側へ手をふる
帰れないと知っても
魂は旅をするかしら
平行線をたくさん引いて
けして交わらないかわりに
ずっと見つめあうような

色塗りに飽きては
パレットを放り
乾いていくとりどりの
うらめしい声をきく
ちいさな体は風に飛ばされそうなのに
もっとちいさなものたちを守らなければならないなんて

ひぐらしの声がする
記憶
泣き止まない子を
泣きながらあやす子
安らぎはどこにあるか
誰も知らない場所にあるか
つめたい板敷の木目を数える
天井と対の綾模様
終わらない夢をみているように
ちいさなからだをちいさくまるめ
おさな児に擬態する片道のあゆみ


自由詩 秋に寄せる Copyright 橘あまね 2015-10-05 11:09:02
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