還暦小詩集
宣井龍人

【酒場にて】
俺のような誇り高い男はな…
そのとき彼は一段と高らかに笑った
そして転げ落ちていった
何処までも転げ落ちていったのだ

私は月明かりの映える窓際で
杯から転げる音を聞いていた
どっぷりと落ち着いていた
真夜中と語らいながら杯を重ねた

自問自答していた
転げ落ちたのは誰なのだろう
グラスの月は答えない

もうすぐ次の日かもしれない
いや違うかもしれぬが
どうでも良いことだった

【錆びた金魚】
プクンプクン
とあぶくが生きて
プクンプクン
とおまえは錆びる
見えないベッド
に横たわり
錆びた金魚は
命を吐く

【すっからかん】
風が吹き抜け僕の心はすっからかん
木こりが樹を伐りゃぶっ倒れる僕の影
栗きんとんは正月待ってる僕の女性(ひと)
けん玉は十下くるくるぼくはくぼ
コンテンツのわからぬ僕がコンテンツ

【子供たちへ】
歳月は重く
吹く風は強く
巻き上げれる髮の少なさ
爽やかな陽射しに映るシルエット
踏んでいく子供たち
そんなに急ぐな
君たちも悲しい

【それでも僕は詩を書いている】
思えば流行とは無縁の人間だ
背伸びしても届かない
夜空の星には願い事が精々
そりゃ一丁前に恰好はつけたさ
なんてたって青春時代
ラケットのガットを強く張り
どうだとばかりの自己満足
垢抜けなさはお手の物
修造君の予選を遠くで観てた
これまた似合わぬスポーツカー
泣く子も黙る方向音痴
ここぞとばかりの逆方向
指定席に乗る人もなく
怒った軽に追い抜かれる
トリ間近の寄席に潜り
一席聞いて御満悦
周りを見れば最年少
何処から見ても与太郎さ
どう読んでも作文だ
価値など何処にもあるわけない
書いている理由もわからない
無意味と言われれば無意味だろう
それでも言葉を愛している
僕は詩を書いている




自由詩 還暦小詩集 Copyright 宣井龍人 2015-10-03 19:19:32
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