模造刀
馬野ミキ

模造刀を作業着のズボンの中に仕込む
上着でさやを隠せばほとんど分からない
通りに出るがタクシーが捕まらず雨の濡れ駅まで歩く
途中嫁さんからメールが来るが返信せずにおく
返信すると決行への態度が変わってしまうからかも知れないからだ
歩くと駅までは15分ある
今思えば自転車で行くという発想はなかったな
本当に行くのか?やっちゃうのか?
何度も自問自答するが、いっちまおうというのがその時の俺の答えだった
模造刀とはいえ、刀を持って街を歩くのはスリリングだ
ところが雨のせいか駅でもタクシーが捕まらなかった
なんということだろう
池袋線に乗り練馬に向かう
本当は森元首相が効果的だと思ったがネットでMR-DESIGNの住所が分かったのでそれでいいやと思った
審査委員も組織委員も森会長も佐野さんも記者会見をしない
マスコミも追わない
もう一度この事件を表沙汰にする必要があった
デザイン界をはじめとする日本の美術界、官僚、政治家、企業、ヤクザたちの利権と癒着
この問題には改革すべき古い日本の体質が凝縮されているように感じた
これが俺の仕事だ
練馬でタクシーを拾う
スマホを見ながら住所を運転手に伝える
雨が降っていた
ニュースで沢山の報道陣がいることは知っていた
豊田商事の事件や、大義の為に己を犠牲にしてきたであろう先輩方を少し思い出した
多分MR-DESIGNには人はいないだろう
模造刀を持つということは人を殺す意図がないことを意味したかった
審査員たちはマスコミから逃げているという
責任者は不在のまま次のエムブレムが作られるのだという
この問題はもう一度表舞台で明るみになるべきだ
タクシーは渋谷の神宮寺で停車した
ネットで見たMR-DESIGNのビルが見当たらなかったのでうろうろした
どこかに報道陣が陣取っているはずだ
報道陣に事務所へ案内させて模造刀で扉や窓を破壊しようと考えていた
それがテレビに出ることを
ニュースになることを
誰かが警察を呼ぶことを
そしてこの罪はそれほど重くはないということを計算していた
家族はばらばらになるかも知れない
だがお父さんはこんな仕事しか出来ないのだ
ムショから出てきたら新しい世界が待っているだろう
もっと俺に似合った気楽でストレートでその日暮らしの世界が

ネットで見ていたMR-DESIGNのあるビルにたどり着いて驚いたのは
報道陣が1人もいなかったことである
計算外だった
俺の存在はその場で崩れそうになった


自由詩 模造刀 Copyright 馬野ミキ 2015-09-18 11:26:58
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