墓石の幻想郷
あおば

               150916

この石は瀬戸内海の青木石だから長持ちするんだ
黒が人気が有るけど、ほんとは白の方が良いんだよ
幼い孫の手を引いて祖父は真新しい墓を満足そうに眺めている
一人息子が戦地に行っているから、自分が亡くなっても、
墓は誰も造れない
気が利くが女だから、息子の嫁に任せるわけにはいかない
だから俺が造るしかないのだと口には出さないがそうに決まっている
明るい光を浴びてきらきらと光る白い御影石の墓石の立つ新しい墓
出来立てだから、だれも埋葬されていないと思うかもしれないが
幼くして亡くなった、父の兄弟姉妹に祖母の骨壷がずらりと並んでいるはずだ
その翌年祖父は亡くなり、運良く帰還していた父が葬儀を済ませ、またすぐに
軍役に戻って行った。用意の良い祖父は息子思いだったんだなと、その話を聞く度に
思った
父が亡くなり、新しい骨壷は石工の手で納骨所(カロート、石棺、納骨棺)に納められた
それ以来、父には会ったことがない、母の時に見ようと思えば見れたのだけどなにか他の用件が起こりそれに気を取られている隙に骨壷埋葬を見るチャンスを失った 埋葬の時は親戚知人が狭い墓所に集まるから、気をつけていないと見損なうのだ しかし、無心論者の私はそれを少しも後悔していない 何故と言うと焼きあがってまだ温かい骨を拾う時に小さな破片を口に入れ呑み込んだからだ 自分の身体の一部分となった母の骨は私を安心させてくれているようだと今この文章を書きながらも感じているが、何年か経つと、骨を含めて人の身体はすっかり食物からえられた栄養で入れ替わると知り、もう殆ど、残っていないなと思うが、また口にする気はない 父母の身体は火葬され殆どの部分は気体となり大気循環しているから、極く微量の父母から発生した気体を日々取り込んでいるのだから、わざわざ骨壷を取り出して骨を取り出す必要も無いわけだ
祖父の造った墓の白い御影石の墓石は横に父母の戒名を加えられ、朝日を浴びてのんびりと日向ぼっこをしているようにも見えた。東向きでよかったなと祖父の心配りに感心するひと時でもある。


初出「即興ゴルコンダ(仮)」
  http://golconda.bbs.fc2.com/
  タイトルは、はかいしさん。





自由詩 墓石の幻想郷 Copyright あおば 2015-09-16 10:48:06
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