耳さらい
そらの珊瑚

わたしたちが集めていたのは
瓶ビールのふただった

父の晩酌のたびにそれは
どちらかの手に入る

栓抜きでこじ開けられた痕は
同じ方向にひしゃげて
それは何かを証明するように
ひとつとてその刻印から
逃れるものはなかった
真新しい王冠は
今もわたしたちの手の外側にある

王の冠は
急速に色あせてゆくだけの
多くの流行りと同じように
ゆくえは人知れず
その取り分をめぐる弟とのいさかいや
ささやかな夕餉の献立
豊かな時間の静止画の
細部は失われてしまったのだけれど

夏の終わりに
澄み放たれた暗闇から
耳さらいが帰ってくる
遠いはずの記憶がとても近くなる
父と育てた鈴蟲の
高くふるえ合う声がふたたび
夜の耳の奥で鳴き始めた


自由詩 耳さらい Copyright そらの珊瑚 2015-08-23 15:21:43縦
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