フットボールはお好きですか
カジェ

サッカーはお好きですか。

サッカー観戦をしていると色んな人がいるものだなと常々思うのです。意見や批評というか、ただの罵言雑言で選手の人格否定すら平然とする方々も居れば、愚直にスタジアムに足を運び海外遠征にもサポーターとして帯同する、熱の入れ方が半端でない方々もいます。「結論、弱いからしょうがない、以上」日本代表の敗戦の後にはこれが現実、正論、しっかり見つめようね、みたいな論調でおっしゃられる方々が増えていますが、おいおいほんの少し待ってくれよと思う今日この頃です。東アジアカップで結果を残せなかった以上何を言われてもしょうがないだろう、確かにそれはそうなんですがこういう時だからサッカーのことを好きになれるチャンスだとも思うのです。

国内でのサッカーの話題はというと、日本代表の試合があれば他のスポーツを差し置いてトップニュースに上がりますし人気も未だ衰えていません。Jリーグも開幕当初はそれなりに注目を集めるのですが、今年から大幅な日程の変更が行われたことを皆さんご存知でしょうか。今まで通年で順位付けしていた制度から、前期と後期にわけてそれぞれで王者を決めるようになったのです。3~6月と7~10月の2つのステージそれぞれで順位を競い合うのですが、節目節目でなかなか面白い試合が多かったりするのです。ちなみにこの2ステージ制が導入されたのは今年からで、それぞれのステージの成績を元に年間王者が決まるのであります。日本サッカー界の底上げを考えるうえでまずわかりやすいのがタレントの出現です。原石、逸材、新星と形容される若手選手や、ある程度経験を積み突如才能を開花させる選手まで、間近で見ることができるのはJリーグであります。若いうちから海外へ挑戦する選手は移籍先のクラブがある程度大きかったり、放映権に魅力がある有名リーグに属していないと、テレビ放送すら視聴することができません。近年ではイギリス(イングランド)、スペイン、イタリア、ドイツが世界の垣根を越えて視聴されているプロサッカーリーグであります。そんな海外リーグでは視聴するのにもまず放送時間であったり料金であったり何かしら障害があります。とはいえ衛星放送が充実している昨今ではスカパーやWOWOWなどで、チャンネルをパックごとに契約して見る事が可能であり、かつオンデマンド配信としてPCやスマートフォンでも視聴ができるようになったため、障害と呼ぶほどのことではなくなってきているのも事実でありますが、やはりある程度サッカー好きでなければ深夜の視聴や月々数千円の出費は手痛いもので、なかなか手が出せない人もいらっしゃるでしょう。
Jリーグももちろん常に全カードが地上波で放送されるというわけではありませんが、海外リーグよりもハードルは大分下がります。まず、皆さんの地元や生まれ故郷にプロクラブチームが存在してる可能性が大いにあります。Jリーグは3部制であり、2部であるJ2や3部のJ3には各都道府県で創設されたクラブやあるいは企業クラブであったり、様々なクラブがしのぎを削りJ1への昇格を目指して戦っています。一度地元クラブのホームスタジアムへ足を運んでみると思わぬ魅力に気づくかもしれません。スプリントを繰り返しがむしゃらに勝負するルーキーや、いぶし銀な働きで危険なところで顔を出しケアするベテラン、日本人よりもダイナミックなストライドとスピードそしてフィジカルを持つ外国人助っ人選手など。いつか地元のクラブから日本を背負って世界と渡り合う選手が出てくるかもしれない、そんなワクワク感があるのです。J2やJ3にそんな有望な選手はいないだろう、と思われるかもしれませんが、若手のうちは出場機会が何よりの成長の糧となるため弱小といわれるようなクラブでも、アンダー世代での日本選抜選手が在籍していることも珍しくはありません。また、将来を嘱望されていたものの度重なる不調や怪我で登録から外されていた選手が、レンタル先であるJ2の弱小クラブで爆発しJ1へカムバック、そのまま結果を残し海外へ引き抜かれていく、という話も実際にありました。全ての選手のキャリアを追うことはできませんが、自分の知らないところでいつも可能性は無数に広がっていくのだと考えさせられた次第であります。国内外問わずどこか一つでもお気に入りのクラブを見つけてみると、サッカーの楽しみ方にも新たな選択肢が増えると思うのです。

現在、日本代表は過渡期を迎えていると沢山の方が感じているのではないでしょうか。海外で活躍する選手も若手の突き上げを受けて、定位置を確保することは今後どんどん難しくなってくるでしょうし、それは決して逃れられないスポーツのサイクルであります。東アジアカップの惨敗を受けて国内リーグで編成された代表への不信感が、そのまま国内Jリーグへと向けられてしまっているのもとてもよくわかります。しかし、変わろうという気持ちを選手たちはいつも持っています。Jリーグの試合を見ると僅かですが自分の思い込みかもしれませんが、そんな変わろうという兆候が見えるのです。
選手たちではなく怒りをぶつける先があるとすれば、それは日本サッカー協会であります。率直に言って不可解極まりない制度改正はサポーターの意見など意にも介さないといった姿勢の現れとも受け取れますし、協会内部のポストは椅子を交換し合うだけで選手が直接非難に晒されようが、お友達人事の協会はまるで体質変わらずであります。

日本のサッカーをめぐる現状はどん底なのでしょうか。どん底と言えば、2010年はまさにどん底でありました。2010年の日本代表はワールドカップ開幕直前の10試合で2勝2分6敗のかつてない成績のまま本戦へとのぞんだのです。しかも直近の4試合では全敗、1得点9失点という最悪の結果でした。世間もバッシングというより関心を寄せるのを止めよう、耳を塞ごうという空気になっていたことを思い出します。しかしながら、そこで奮い立った選手たちや岡田監督の勝負を賭けたといってもいい大胆なシステム変更により、素晴らしい結果へとつなげることができました。適応できないとバッシングされていた本田選手がトップに入ったことで、それぞれの特性を活かすことができたのであります。そして2010年の日本代表の何人かは今も海外で戦っているのですから、どん底からもがいて這い上がった精神力はまさにサムライであると思うのです。

「精神論や抽象的な話題ばかりで結局どうすれば強くなるんだ」
はい、まさにその通りです。
私は海外リーグは大好きですし、同じくらいJリーグも好きです。スタジアムにもよく足を運びます。良いところも悪いところも沢山見てきました。Jリーグでは海外リーグほどの激しいフィジカルコンタクトはそう多くないですし、主審がファウルを取る傾向も当たりに厳しいと言えるでしょう。プレミアリーグという世界で最も人気のあるリーグを観戦したならばその差に驚くかと思われます。ラガーマンのような体型の選手たちがトップスピードでぶつかり合うのはもちろん、ボールの動き自体も大変スピーディです。苛烈なフィジカルコンタクトや、どうしてそれがイエローカードじゃないんだ?というジャッジの基準など、同じ競技ではない錯覚すら覚えます。黒人選手と対峙した日本の選手が、最後のところで足が伸びてきた、とインタビューで答えてるのを聞いたことがあるでしょうか。骨格からして世界と日本では埋められない差があります。相手のリーチが遥かに長いということは、オフェンス時においては重心の逆をついたり、小刻みなフェイントでリーチの先に飛び込ませないようなボールコントロールをするなど工夫を凝らす必要はありますし、ディフェンス時においては身体を入れられたら長い手足と常に駆け引きしなければなりません。体力の消耗と劣勢時にはその奪えないという焦りで、メンタル面でも消耗してしまうでしょう。ではリーチの差が勝敗の差なのかと言えばサッカーの場合では必ずしもそうとは言えません。身長が低い選手でも素晴らしい選手は世界中にいます。メッシ、アグエロという二人のアルゼンチン代表選手は身長が170センチ以下ですが、体幹やインナーマッスルが大変強く、重心が低いこともありバランス感覚では長身の選手に全く退けを取りません。何よりもボールタッチが繊細で個々のテクニックは世界屈指であり、ボールを止める蹴るという基本技術だけでお金を取れる選手であると言えます。リーチがなくてもそれを強みに変えることは可能であると両選手のプレーを見るたびに実感するのです。もちろんそのためにはボールコントロールの精度を基礎から高めることと、その技術を発揮するための身体を作り上げることが至上命題となります。トップスピードの中で発揮されないテクニックは意味が無い、この言葉、よく日本代表が言われることであります。全力で走るともちろんスタミナは大きく消耗しますし、筋肉には乳酸が溜まり反応が鈍ります。そんな100%ではない状態で発揮できる技術こそ、実戦において一番の武器になるし信頼できるという理屈です。また「球際」という言葉がキーワードとして日本のサッカー界にも浸透してきました。この球際とは簡単に言うとボールを選手同士が奪い合うシーンのことです。奪い合うシチュエーションというのは様々ですが、前述したトップスピードでドリブルしている時に360度全てにスペースがあって視界が開けていることはほとんどありません。相手選手が身体をぶつけてきているかもしれませんし、雨で芝生が濡れてスリッピーな状態かもしれません。ピッチがデコボコなスタジアムでの試合だってあります。トップスピードの中でも変わらずに発揮できる技術は言い換えれば、激しい球際の攻防の中でも発揮できる技術と言えるのではないでしょうか。現在、日本のサッカー界このテーマに向けて選手個人もJリーグも変化しようともがいている時期だと感じております。どうしようもない体格の差は技術とインテリジェンスで埋めるしかないのですが、日本サッカーの進歩の歴史を振り返れば乗り越えられないテーマではないと思われるのです。

つい先日、岡崎選手がプレミアリーグにおいて初ゴールを決めました。岡崎選手そのものを体現したような素晴らしいゴールでありました。「一生、ダイビングヘッド」という言葉は岡崎選手の座右の銘でありますが世界で一番かっこいいと思うのです。ボールを諦めずに追いかける選手に必ずボールは転がってくる、そう岡崎選手は信じて努力を積み重ねてきたのだといいます。そのスピリットは海外でも地元のサポーターの心を掴んでいます。また、香川選手もドイツのブンデスリーガ開幕戦で類稀なパフォーマンスを見せてくれました。チームの歯車として大車輪の活躍であったと思うのですが、ネット上では意外と辛口の意見が多かったのが印象的でありました。香川選手は周りの選手のパフォーマンスを更に加速させる選手であると思っていたのですが、まさにその稀有な特性を存分に発揮した開幕戦だったので個人的には大満足でありました。大迫選手も開幕戦で得点しましたし、長谷部選手は鋭い縦パスに散らしにとゲームメイクで際立っていました。一方で不調の選手も多くまだ開幕したばかりの海外リーグとはいえ、次の試合で何が起こるかわからないのは毎年のことです。異国の地で、定位置を掴むために常日頃から闘っている選手たちを最終節まで応援していきたい所存であります。

最後に、Jリーグが好きな人もいれば海外リーグが好きな人もいます。ネットではなぜかそれぞれの対立を煽る輩がはびこっており、日本人の選手同士で話題でもまるで見当違いなやり取りが見受けられます。私はサッカーの試合や日本のサッカー界のあり方に絶望を覚えたことはありません。絶望しそうになるとしたら、ネットの心無い中傷と対立を煽る全く中身の無いメッセージ、それらを発信している方々に対してであります。セルジオ越後さんという辛口なサッカー批評者がいますが、私はセルジオさんの批評も好きであります。何かを変えたいなという気持ちはサッカー関係者皆持っているのでしょうし、2ステージ制がJリーグに何をもたらすかはわかりませんが足は運びますし、アジアチャンピオンズリーグではJリーグのクラブを優勝を信じて、声援を送るのであります。


散文(批評随筆小説等) フットボールはお好きですか Copyright カジェ 2015-08-17 22:17:47
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