淀川長治に憧れて(2)
末下りょう

最近あまりこれ大好きー!これ大好物ー!な作品にめぐり逢えてないけど視点を変えて


ジャッジ 裁かれる判事
(監督)デヴィッド.ドブキン
2014/アメリカ


レンタルDVDで鑑賞、観た動機はデカくて目つきの悪いヴィンセント.ドノフリオが出演しているからです。フルメタルジャケットでのドノフリオの命懸けの熱演、怪演を観た当時のぼくはボコボコにされ、それ以来このデカい目つきの悪いおじさん(当時はデカい目つきの悪いニーチャン)の大ファンなのです。今作、ジャッジでももちろん抑えてるようでまったく抑えてない一癖も二癖もあるへんな演技で主人公の兄役を見事にこなしてます。しっかりした粗筋とか気になるなーって思ったらwikiとか作品ホームページとかでみてみて下さい。そっちのがよっぽど正確無比でタメになります。そんでドノフリオドノフリオ彼はいま絶賛公開中のジュラシックワールドでも3Dのデカい目つきの悪いおじさんとして大活躍?!しておりますこちらも是非。

それで、このジャッジ 裁かれる判事。これを観ようと思ったのは端的にはドノフリオだけど、ここで淀川ろうと思ったのは鑑賞後に口コミサイトやいろんな批評家の批評や評価点数をみていて、自分の印象より全体的にだーいぶ低い評価がくだされてるのにびっくりしたので、せめてここ島国日本のさらに隅っこの隅っこにポツンと地味にとても良かったですよ製作陣のみなさんとつぶやく奴がいることをひっそり残したいと思ったからです。

この映画は商業主義の大横綱、拝金主義の大怪獣、天下の資本帝国ハリウッド傘下の制作会社の配給ですたぶん。制作費は中堅規模(ハリウッド規格)の50億円前後らしいです。。ヒューマンドラマの枠では大作の部類に入るのかも。まず感想は、この作品、役者も映像も脚本も、音楽も音声もすべて巧みにハリウッドらしくハリウッド的に作り込まれたハリウッドの職人たちによるプロフェッショナルな技の数々を堪能できる秀作に仕上がってると思いました。だから何だかんだハリウッドは捨てらんない!と感じさてくれる水準のものです。以外とそう思わせてくれるハリウッド発のドラマものはまれです。アクションものはちょこちょこあるけど、とくに近年はまれにまれ。

主人公は裁判のメッカ、大都市シカゴの敏腕弁護士、演じるのはロバート.ダウニー.Jr.。アイアンマンの人。元薬物中毒者。その息子も最近薬物でしょっ引かれてマスコミに(息子はぼくの遺伝子をしっかり受け継いでるね)と言い放ったかっこいい大金持ち。出演料高め。でももともと演技派の芸能サラブレッドなのでこの作品でもいかんなくカメラフレームをつねに自信たっぷりに自分の支配下に置くような溢れんばかりの才気を繊細な色気に転換させて振りまきそれが抜群にお洒落さん。さすが。ロバート.ダウニー.Jr.の独特な身体パフォーマンスも見逃せなくてちょっとこれ見よがし感はあるけど所々に挿入されるワンカットに表現するセクシーな彫刻的ポーズにしろフォトグラフィックな表情にしろ、アドリブなのか演出なのか無駄に推測したくなるようなラフなスケッチ的空気感を映像のディテールに醸し出すシーンコントロールが素晴らしい(とくにドノフリオとの掛け合い)。賢くて嫌味でナイーブで自分の故郷と家族とうまく向き合えない男を賢く嫌味にナイーブに演じきってます。

そして田舎町のボス、町の住民に尊敬され恐れられ、息子たちからも時に(ジャッジ)と呼ばれる厳格な判事であり主人公の父親でもある役を見事に演じるロバート.デュバル。名優です。こうゆう人がハリウッドにはいますのでまったくあなどれません。レジェンド。このロバート.デュバル演じる判事さんがある事件を起こした疑いで逮捕され、小さな田舎町がパニックになる所からこの作品のストーリーの色々な伏線が本格的に発動していきます。なかなか骨太なテーマ(法廷劇、善悪、家族、故郷、たまに恋愛)を袋詰めにしてなお空中分解させることなく(ほころびはあるにせよ)見事に纏めあげてるという印象を持ちました。ストーリーの流れに定期的に挟み込まれる(昔に撮った家族の想い出のフィルムたち)には結構ジーンときてしまいます。
そして張り巡らせたあらゆるカテゴリーの伏線を片っ端から回収していくところがハリウッドらしくてこの作品に関しては逆?に気持ちいいくらいです。ラストはそこまでガッツリきれいさっぱり回収し尽くしますかと言いたくもなりますが、あのアメリカ合衆国やその他世界規模でワールドワイドに映画をヒットさせる為にはこれくらいの力技は仕方ありません!大目にみましょー。なぜならラスト、その美しい湖に浮かぶボートの上での(赦し、或いは解体)のシーンからだんだんカメラが引いていくそこに絶妙に挿入されるウィリー.ネルソンが歌うコールドプレイ(ザ.サイエンティスト)貫禄のカバーがこの作品のあらゆる親子関係、家族関係を代弁するようでもうぜんぶ歌いきっちゃっててはい参りましたって感じになったからです。それにこの映画の映画音楽やその他のサントラもなかなかニクいのです。

あとは検事役のビリー.ボブ.ソーントン(アンジーの元カレ)や、主人公の元恋人役のヴェラ.ファーミガ(必要以上にエロい、ウェルカムだけど)などなど実力派が脇を固めています。とても堅実で誠実なキャスティングです。
映像も秀逸でとくにアメリカの架空(たぶん)の田舎町の風土(アメリカの田舎町にありがちな排他性とかハリケーンのような自然現象と共存する生々しい姿とか)を浮き上がらせる為の疎外感を演出する遠近法や鮮やかな色彩は目を見張ります。多少毒々しい感じもしますが(ドルのかかった)リッチな質感の絵作りを提供してくれてます。悪い奴の悪いっぷりも気が利いてます。

ぼくは映像ものに限らず(その作品のストーリーや事件の新しさ)というものにはあまり価値を置きません。でもトータル的に新しくはないストーリーや事件が新鮮な呼吸方法や身振り手振り、予想外の表情を魅せてくれた瞬間を運よく捉えることができた時の喜びはとても大切にしています。この(ジャッジ 裁かれる検事)のストーリーや事件、伏線の回収経路やドンデン返しにもぼくはそんなに新しくはないストーリーに新しい呼吸のタイミングや立ち振る舞いを目撃しました。よかったら暇な人、チョット長めだけど観てみてね。世界の評価は低めですがそこはノリで。


それではまた会いましょう。サヨナラッ サヨナラッ サヨナラッ


散文(批評随筆小説等) 淀川長治に憧れて(2) Copyright 末下りょう 2015-08-17 08:25:38
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