御見舞


知人の見舞いに桃を持っていったが
急に呼吸状態が悪くなったと
面会はできず
桃は連れ帰った

食卓に置いた木箱のふたを開けると
縦にみっつ並んで
桃たちは姉妹のようだ
血色よく尻をならべ
なんだか嬉しそうに見える

どの桃にしようか・・・

まん中のをそっとなでると
びくんと微動した

それではと手前のひとつに触れると
あっ!と声をあげる

これは大丈夫だろうと奥の桃に手を伸ばすと
チクリと指先が痛む
なんと生毛が針みたいに硬く刺さるではないか

これはどうしたものかと
ふたを開けたまま腕組みをする
大きく息を吸って
桃をじっくり眺める

あまい香りが部屋じゅうにひろがる

そこへ母が現れて
あら桃ね、切りましょうか?と言う
しどろもどろしているわたしを
訝しげに覗きこむと
さっさと台所へ箱ごともち運び
あっという間に桃ひとつを切り分け
さあ召し上がれ と言う

果汁がしたたるあまい桃
たいしてかみ砕かずにごくりと飲み込んで
扇風機のスイッチを入れる
いまのがどのひとつだったのか気にしながら
さきほど剥がした「御見舞」ののし紙が
折れ曲がってひらひら動くのをじっと見つめていた





自由詩 御見舞 Copyright  2015-08-11 13:30:00
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