ダイパー・ドライブ
夏美かをる

『ダイパー・ドライブやっています』

“おむつのドライブ?”
丁寧な発音
穏やかなトーンの声に
思わず立ち止まる
行きつけのスーパーの入り口

『新生児用のおむつが特に不足しています。
 もしできましたら、ご協力下さい』

紳士がにこやかにチラシを差し出す
櫛の通った銀髪
白いポロシャツに
アイロンのきいたチノパン

一体何の故あってかような紳士が
新生児のおむつを集めているのだろう?

おむつ売り場に行ってみれば
新生児用があと一つしか残っていない
何故か慌てて まるで景品を奪うかのように
最後の一つをカートに入れる

『おしりふきも買いましたよ。
 これもないと困りますからね』

『ありがとうございます』

紳士の青い瞳がより美しく輝き
私の心にほのかな灯を点す

いくら祈り続けても
世界から戦争は無くならない

いくら願い続けても
学校からいじめは無くならない

決して浄化されることのない地球という星
だが、この心美しい紳士に私が託した
三十ドル分のおむつとおしりふきが
せめていっときでも
ある小さなおしりを浄化することができる

ピカピカ、ツルツルになった
生まれたての瑞々しいおしりのことを
ただ一生懸命想像している…そのうちに
おやつは桃のコンポートで決まり!
なんていつの間にか考えていたりしてー

今日は優しいお母さんになれるかもしれない
それもこれも ただ単に
あの紳士が思いがけず素敵だったお陰に他ならない


自由詩 ダイパー・ドライブ Copyright 夏美かをる 2015-08-03 14:02:58縦
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