「おーい おーい」
イナエ


「おーい おーい」
と誰かが大声で呼んでいる
ドラッグストアの狭い通路

こんな時 こんなところで
大声で呼ぶ声なんぞ
知らない人に決まっている
振り返ってはろくなことは無い
と知らん顔

おーいおーいが
狭い通路をノコノコ近づいてくる
仕方なく振り向く
笑顔が「久し振りだね、元気?」
わたしは慌てて笑顔を作り
「ほんと ひさしぶり」と会話をつなぎ
「やま…」と姓を言いかけて 言葉を飲み込む

何時だったか 夫が言ったことを思い出す
  よく知っている奴が名前で呼ばないとき
  そいつは こちらの名をど忘れしているのだ
だから こちらも相手に合わせて
  名は呼ばない。
  それでも会話はできる。

「あんた ちょっと スマートになったね」
つい出てしまった外見変化の感想
 
  スマート 糖尿か癌の疑い…
  フックラ メタボリック症候群…

ああ
年寄りにはどのように話をつなげば良いのか
やはり
「おーい おーい」にはスルーが良いようだが…


自由詩 「おーい おーい」 Copyright イナエ 2015-07-31 13:54:44縦
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