キッチン
そらの珊瑚

枝から青くふくらんだ
健やかなる実をはずす
茶色いしみのようでいて
何かを主張している風の
そんな模様を持つ実は
捨てた

捨てたあと
なぜかもう一度この手に取り戻し
親指と人さし指で
はさんで力を加える
そこにあったのは固い実ではない
やわらかな感触のあと
得体のしれない細胞が
壊れあふれてきて
豆を食べてぬくぬくと育っていただろう小さな命を
わたしは潰し
この指の腹に刻印した
わかっていたのに
わかっていたのに
それでも
そこへ在ることを確かめたかったのだ
(もしくは何もないことを確かめたかったのかもしれない)
どちらにしても確かめずに捨てるなんて出来なかった

鍋の湯がぐらぐらと沸騰してしまう季節の前に


自由詩 キッチン Copyright そらの珊瑚 2015-07-18 13:20:05
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