フェティッシュ
かや

男の手を美しいと思った。
私より一回り太い指と丸に近い爪。黄みの強い鮮やかな肌色。烏龍茶の入ったジョッキを掴むのを見ながら、男がその手で自身の性器を包むところを想像する。黒い前髪が左目にかかるのを、右手で払いのけるときに視線が合って、私は目だけで笑いかける。酔いが回って自分の脈拍が早くなっているのがわかる。腕を差しだし、男にそれを確かめさせたいと思う。

駐車場に止めた車のなかでキスをした。男の手が肩から腕に滑り、腰のあたりを上下した。うつむいた私の顔にかかる髪を持ち上げるように、親指が頬を撫でる。少し体温の高い、その指。掌が私の輪郭をたどって、耳から首、ひざから太ももへと動く。しばらくそうさせてから、男の腕へ入って心臓の音を聞いた。頭の後ろを抱え込まれて、指先が耳に触れる。


だめですね、
だめだね、


男は私の手首を上に向けて、細い静脈を親指でなぞってから、名残惜しそうにそれを放した。


散文(批評随筆小説等) フェティッシュ Copyright かや 2015-07-15 23:01:07
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