聞こえない歌 見えないダンス
塔野夏子

私は歌う 聞こえない歌を
私は踊る 見えないダンスを

爛れた雨の降りしきる中を
ぎらぎらとひらめく旗たちの下を
言葉の礫たちの飛び交う中を
私は歌う
私は踊る

幾重もの傷が重なる記憶の時空を
震える小鳥たちの羽搏きのかそけさを
私は歌う
私は踊る

垂れ流される濁った影に怯えながら
捩れた企てがもたげる鎌首に戦慄しながら
枯れた空に虚しく聳える阿房宮を嘆きながら
私は歌う
私は踊る

けれど立ちのぼる祈りたちの静けさとともに
私は歌う
私は踊る

存在の始源に刻まれた不思議な刻印が
響かせる調べのままに

私は歌う 自分にも聞こえない歌を
私は踊る 自分にも見えないダンスを





自由詩 聞こえない歌 見えないダンス Copyright 塔野夏子 2015-07-13 11:31:00
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