「ハメルーンの笛」に曳かれて
イナエ

   ―歩いていたのは七〇年前―

前方は霧に閉ざされて
先導する人は見えない
が 上空に山の頂が透け
笛の音は聞こえる

山の頂き
そは 蜃気楼か 実象か
先導する者は知っているとしても
追随するぼくら少国民は知らない

 追随 
 それは前の人影を見失わないように
 疑うこと無くひたすらついて進む一方通行
 
笛は微かだとしても
霧の中に歌が広がる
歌はぼくらを魅了して
やがて陥る自己陶酔

もはや上空の山頂など
見ることも無く
ましてや吟味すろことなど無く
笛に導かれ
己の歌う歌声に励まされ

 疑うことは罪悪だった
 疑うことは反逆だった

笛の音が止められ 歌を喪って
とまどうぼくら
目覚めさせられて 観たのだ
ぼくらの前にある無限の奈落を
 
 そして知るのだ
 疑うことは正しいことだと
 今日も鳴っている笛の音
 疑って 疑って
 眺める霧の奥
 そこに隠れている物こそ実像
 ではないかと


自由詩 「ハメルーンの笛」に曳かれて Copyright イナエ 2015-06-28 21:10:20縦
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