液晶に、雨
Rin K




傘をさす手を奪われるほど
僕は何かを持ちすぎてはいない

縦書きの雨
カーテンの雨
通話中を知らせる音の雨
改行の雨
鉄柵の雨
液晶に、雨

こんなにも雨にまみれた世界で
傘をささずに、ひとり
忘れ去られた電話ボックスのように立ち尽くしている間に
現在と過去との距離は
過去と大過去との距離を
もうはるかに超えてしまった

ひとりひとつ
てのひらに収まる窓を持っている
二十三時を過ぎたバス停には
それらの窓にとつとつと灯がともる

液晶に雨
手の甲に雨
鼓膜にも雨
君の名で、雨

傘をさす手を奪われるから
僕はなにかを、君に
この窓から飛ばそうとはしていない けれど

ほのひかる雨
ゆびさきで雨
尾を引いて雨
夏だけの、雨

こんなにも雨にまみれた世界で
傘をさす手を奪われている






自由詩 液晶に、雨 Copyright Rin K 2015-06-18 22:59:16
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