うつけもののささえ
あおば

                150609

死刑廃止の署名にサインして
いつも僕をリードする勝子が
A4用紙を突きつけた
住所氏名を手書きで書くのだ
署名の目標は100万名だと
少し、大き過ぎるのではと言ったら
なに国民のたった1パーセント以下よ
できれば1000万名なんだけど
流石にそこまでの自信は持てないわ
とりあえずはこの町内の良識ありそうな人から
考えることの苦手な人
死刑制度を認める人も含めて8割くらいは
署名させるつもりよ
死刑を認めるのは弱虫なのよ
弱虫の虚け者よ、勇気も覇気もなにもかも
どこかのヒーローに預けて利息を貰いたがる
けちな人よ
勝子の論理はいつも正しく一直線に人の心を打つ
だから僕は素直な気持ちですぐに署名に応じたのだけど
素直になれない人も居るだろうなとは考えている
最愛の人を惨殺されたりしたら、その犯人を素直に許す
そんな心境にすぐに成れるだろうか
無理して許しても無理が破綻して違うところに怒りが向く
ことになるのではないか
勝子が酒酔い運転の車に轢かれても、署名活動を僕は
続けられるだろうか
縁起でもないことを考えた途端
戦場で敵兵を撃つのは犯罪ではない
無論、死刑にはならない
しかし、撃たれて殺された敵兵にしてみたら
裁判無しに銃殺されたことと同じだ
双方が相手を殺す平等の機会を与えられているから
死刑と同じではない
死刑とは反撃を許されずに一方的に殺されるのだとも人は言う
しかし、そんな、平等に機会を与えられていることなんて
滅多にあるまい
殆どは、隠れている射撃手に知らない間に撃たれるのだ
空からの爆撃だって、反撃のチャンスなんて、少ない
国家の認める戦争と個人の犯罪を同じに考えるなと言われそうなので
此の辺で考えを中止するが、虚け者を撃つ獣と先に変換する
僕のPCは案外本質を突いているような気がして
勝子の親はなんで、勝子なんて勇ましい名前を与えたのだろう
それは、気が弱くて、苛められる子にはしたくないとの親心か
負けるより勝つほうが気分が良いから、気分の良い名を与えたのかもしれない
負子、なんて名を聞いたことは無いから、勝子は案外、良い名なのかもしれない。




初出「即興ゴルコンダ(仮)」
  http://golconda.bbs.fc2.com/




自由詩 うつけもののささえ Copyright あおば 2015-06-09 21:54:53
notebook Home 戻る  過去 未来