水辺の、ほのか
千月 話子

アネモネの花 流れる小川に
足を浸して赤味差す小さな、ほのか
足先の揺れる水光り
長く尾を引く清流に
白竜の子 触れるという

ロング・ロング・ア・ゴー 昔話の
ロング・ロング・ア・ゴー どこにあるのか・・





   1960年 お昼前

中華レストランのキクラゲ流れる排水溝
濁る川に足を浸して 青ざめる
小さな、ほのか

水中で揺れる藻の塩辛いスープ
雨が降らなくなって もう何日経つのか・・
千年の白竜に お願いして、お願いして
ジャスミンティーを百トン 降らせて下さい

油膜の取れた水鳥は
爽やかな花の香りに満ちて
爪先立ちで踊る、ほのか
水の上で





   2000年 夏の夜

爆竹は嫌い 騒音と白煙の水上
たゆたう大きな川
しかめ面して見つめる小さな、ほのか
夏祭りには笑って ねぇ、笑って

巨大な色火の粉降る川辺にまぎれて
オレンジ色に頬染める可愛い、ほのか
手に持った わたあめ
溶けて砂糖水になってしまっても
心 花火の輪と共に





   3015年 朝もやの中

愛しいあなたを想って
ピンク色に光り差す素敵な、ほのか
恋人は千メートルの上空
巨大ロボットの操縦室へ行ってしまった

清掃された小川の桜
掬っても掬っても 涙の花びら
千年の白竜が
メタリック・シルバーの鎧を着けて
足元に 触れるよ
お願いして お願いして
私に羽を付けて下さい
薄羽は一回きり

空の川泳ぐ
金色に光るきれいな、ほのか
ガラス越しに触れる手のひら
 ああ、、、愛しい人よ
ロボットの作動する電源を
早く 早く入れて下さい

やがて額に灯る明かり
うれしい、ほのか
超合金の つま先を
小さく見える川に浸してみたり

この 美しい平穏を
いつまでも いつまでも
あなたと祈る
仄かな、ほのかと・・・・






自由詩 水辺の、ほのか Copyright 千月 話子 2005-02-09 23:10:09縦
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