ある妖精編
梅昆布茶

いつか妖精と化すまえに
あどけないふりをしてくれないか
ひとけのない昼下がりに
しどけない昨日の夢を見たいのだから

広辞苑にも大辞林にも誰の日記にも描かれていない
ひそかな言葉で約束をしたいだけなんだ
太古に分割されたゴンドワナ陸塊の
かたわれの住人として

女性たちよ自由にきままに
愛の着陸点をみつめよ

幼い頃こわごわに読んだ母の実家の岩波文庫
小杉天外の魔風戀風
中里介山の大菩薩峠
岩波大百科事典の海洋生物編の不思議

スーパーで買ったミックスサラダに
ミニトマトとカリフォルニアレーズンをトッピングして
ベーコンと黒胡椒のドレッシングでビールのつまみにする

ドラッグと酒で死んだだろうジムモリソン
渋谷駅前の飲食店の二階席で女性と話し込む
混血の黒い青年

すべてが遠いと
書き残して消え去った
60年安保の左翼の闘士だった先輩

日常をドリップしてみる
汗臭いシャツと日向に置き去りにされたマイナスドライバー
チェシャ猫とアリスのあたたかい蜜蜂入りの紅茶
(こんなの飲めるの?)

インターネットコンテンツの森のなかで
子供達と葬った仔兎の眠るいまはなきイヌ森を想う

大井競馬場で次の出走を待ち構えている
血統と成績のわるいでも美しい四つ足のランナーのように
燃え尽きるまで駆け抜けようと想った











自由詩 ある妖精編 Copyright 梅昆布茶 2015-05-22 06:15:04
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