年を取る取るとはこういうことかー振り返るー
イナエ

まだ若い老人であったころ
同僚と紅葉の山麓へドライブ旅行にでかけた
秋空のもと 静かな集落を抜けるとき
前方遙かに 背をかがめた人が横切るのを見た
同僚はスピードをやや落として言う
「老人は 何をしでかすか予測がつかない」

と 渡りる寸前老人が来た方向を振り返り 戻り始める
「そら来た 言ったはなから…」
車は老人の往復し終わった道路を何事もなく通過した


朝の台所で味噌汁の具を刻んでいる女房
と食卓の間をすり抜け
冷蔵庫から冷やしたお茶を取り出そうと
狭い通路にさしかかる

と 女房が突然身体ごと向きを変え
わたしと正対する
その手に包丁が尖って
わたしを睨んでいる

女房の善意は 
恐怖となってわたしを抜ける 


自由詩 年を取る取るとはこういうことかー振り返るー Copyright イナエ 2015-05-05 09:50:08
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