春の海の変容
石瀬琳々

春の海はまぼろし
蜃気楼の楼閣さえ彼方に浮かんでいる
わたしを呼んでいるように


遠い海鳥
緩慢な波
割れた貝殻
ただ砂にうずもれて


あの子のか細い肩甲骨はもうさびしくなかった
両手を差し伸べると
背中でふるえる白い羽根
少年は涼しい目をして飛び立っていった 雲間の彼方
それとも一羽の鳥だったろうか 白い羽根が風に舞って


白い羽根のひかり
雲の切れ間のひかり
風はひかり
ただ春の陽射しにながされて


あのひとの美しい足は魚になってしまった
砂に濡れたと思われたのは
きらきらと光り輝く鱗
少女は花のように微笑んで 長い髪をひるがえした
それとも波間にはねる魚影だったろうか 花びらに似て


春の海はまぼろし
寄せてゆく幾重もの波が白馬の群れになる
わたしもいつしか透過していくだろう


駆けてゆく 駆けてゆく 風を道連れとして




自由詩 春の海の変容 Copyright 石瀬琳々 2015-04-22 13:23:04縦
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