無翅
木屋 亞万

ミサイルが雲を吐き出していく
いつものように飛行機ならばよかったのに
女だって子どもだって
味方を攻撃するものは殺す
復讐の芽を摘むために
一族郎党皆殺す
不用意な情けは平和を遠ざける

効率的に強力に
鋭く強く広範囲に
武器も備品も戦術も
どんどん進歩していく
いまや顔を合わさずに
時間をかけずに人を殺せる
油断は死を生み正義は殺意を生む
互いに裏をかいては
何もかもを疑えと説く
笑顔を差し出す手に毒を塗り
窓ガラス越しに人を撃つ
見晴らしの良いところにいれば
どこからだって弾が来る
頭を隠し忘れたら敵に的を提供し
頑丈な乗り物はもろとも爆破するに限る
犬も歩けば爆弾を踏み
空から降り注ぐ高濃度の生物兵器


戦争を嫌い殺戮を拒み
暴力を忌避する者たちは
どのように自分たちの望む未来を手に入れるのか
敵が家族を殺し友人を拷問し略奪の限りを尽くすとき
それでも拳に力を入れずされるがままでいられるか

世界に敵ができたとき
どう接するのが正解なのか
剥き出しの悪意に触れたとき
ズルさや傲慢さが蔓延するとき
どう生きるのが正しいのか


愛国心を煽り暴力を称賛し
やられる前に攻撃し
やられたらやり返す人たちを
わたしは全力で嫌悪する

同時にまた
戦争にアレルギー反応を示し
なんら論理的根拠も説明もないまま
感情的に相手をこき下ろすだけの人間も
わたしは全力で嫌悪する

わたしは考える
戦争のある世界を
欲望と疑心暗鬼が生む殺戮の知りうる限りの情報を集めて
死と絶望の歴史を読み解き
そこにある嘘や誤謬や大袈裟さを割り引いて
わたしは考える
極端になりすぎないように
ほどほどであるように

圧倒的暴力を前に
どうしようもなくなれば
考え過ぎて行動できなくなるだろう
いずれ絶望のなかで殺されるとしても
世界を憎みながら私は
最後の一瞬まで
誰かを直接殺す兵器は
持たないままでいたいと願う


自由詩 無翅 Copyright 木屋 亞万 2015-04-20 00:17:05
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