とっても優秀なお医者さん(だーれも知らないシリーズ6)
森川美咲

だーれも知らない小さな国の
とっても優秀なお医者さん
ある男の病を治してやろうと
とっても強い薬を送った

というのは嘘で
その差出人不明の小包には
毒針が仕掛けられていた

差出人不明は気味が悪いからと
病んだ男は受け取らない
返送先が書かれてないもんだから
毒針は国中を
ぐるぐるぐるぐるたらい回し

おそろしい毒針が
返ってきては困るから
差出人名を書かなかった
とっても優秀なお医者さん

というのは嘘で
お医者さんはちゃんと
男の病に効く強い薬を
注射器にたっぷりと詰めた

たらい回しの小包に仕込まれた針が
国中の心優しい人を突き刺しながら
いつまでも旅を続ける

毒にやられたのか
はたまた薬の副作用か
病んでもいない民たちが
青ざめ 弱り 倒れていく

ちゃんと届ければ効いたのに
差出人を書かなかったのは
たいそうに感謝されるのが
照れ臭かったから

というのは嘘で
これほどの毒を
送りつけられるなんて
男はきっと何かしら
お医者さんを怒らせたんだな

だーれも知らない小さな国の
心優しい民たちが
痩せこけ 弱り 倒れていく
だれにも知られないままに

とっても優秀なお医者さんは
とっても優秀なんだから
こうなることも最初から
全部わかってた
というわけにはいかなかったのが
とってもとっても残念だ

ほんとかな


自由詩 とっても優秀なお医者さん(だーれも知らないシリーズ6) Copyright 森川美咲 2015-03-23 00:22:36
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