la pluie de sirop
木屋 亞万

メザメロメザメロとわめくけれど
わたしはとうに起きている
いちばんねぼけているのは誰か

ゆめの中でだけほんとうの自分でいられる
さまつなことが捨象され
円をふちどる線は消える
残るは小さな穴だけだ

ハシリダセと言われる前から
じぶんのペースで動き出している
すこしたかい山に登ったからって
したり顔をしていると
空飛ぶ鳥に笑われちまう

遠くの何かにあこがれすぎた
身近なものを足蹴にしては
道案内を見落とした
遠くへの道筋を知らないまま
大人になってしまったね

糖蜜の雨が降る前に
プランタンの傘を探そう
シェルブールはいずこ
cannelé de Bordeauxの蜜蝋が破裂して
ポケットに蟻が群がる
蜜月のときは近い

燃料が枯渇して針がEに触れている
底の線を削り取って無理やりFにしたとして
なめらかに走り出すほど甘くはできていないらしい

ほかの生き物を口から放り込んで
補給しないと走り出さないなんて
物騒だとは思わないか

水と光だけで生きていけたらいいのに
木さえ屍肉の蜜を吸う

冬が潔く去ることができないので
寒さをいつまでもぬぐいきれない
死を養分に咲く花と
甘さの残る酸の雨
蜜柑の声はしわがれて
メジロはサメの餌になる
目覚めなければ朝は来ない
ギターの奏でる階段を昇れ
虹の中心にはいつも
見えない穴が開いている
そこへ向かって走り出すのだ


自由詩 la pluie de sirop Copyright 木屋 亞万 2015-03-14 12:19:02
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