風のオマージュ その6
みつべえ
☆小山正孝「倒さの草」の場合
草むらに私たちは沈んだ
草たちは城壁のやうに私たちをくるんだ
倒さの草たちのそこの空に白い雲が浮んでゐる
青ざめたほほと細いあなたの髪の毛と
草の根方を辿つてゐる蟻と蜘蛛と
しめつた黒ずんだ土と・・・・・
暑い夏の日だつた
あなたとはもう縁もゆかりもないけれど
今も思ふ
純粋とはあれなんだ
起きあがつた時のあなたの笑顔とすずしい風と
美しいくちびるの色
恋人と草むらに倒れこんで逆さの角度から見上げる空と雲。私にも覚えがある青春のスナップショット。これもやはり1962年に脱稿された「戦後の詩」からの引用で、編者の安西 均は「追憶的なすずしい恋歌」と評しています。
初々しい少年だった私はいつもこの本を持ちあるいて、好きな詩にチェックをいれたり、感想を書きこんだりしていました。よっぽど気に入ったらしく、この詩には赤鉛筆で◎が付いています(笑)。
ところで私はしばらくの間、っていうよりも、ン十年後にたまたま読み返すことになった先日まで、題名にもなっている「倒さの草」を、「タオサの草」とデタラメによんでいました。倒れた二人と倒された草のイメージが強くて、しかも当時は今よりも漢字読めなかったもんで(笑)。「サカサの草」ですな、もちろん。ふがいない読者ですいませんでした、小山さん。
●小山正孝(1916~2002)
東京生まれ。学生のとき立原道造と交遊。終刊近い「四季」の編集にも参加した。生粋の抒情詩人の系譜。去年11月14日、86歳で亡くなった。もうじき一周忌ですね。
この文書は以下の文書グループに登録されています。
☆風のオマージュ