夜中の猫
春日線香

勝手に死んでしまった猫が
地面の下で 魚が食べたいという
いくら魚が食べたいと思っても
ここにあるのは石っころかミミズかモグラか
去年あんたが埋めた三輪車くらいなのだからと
しつようにしつように要求してくる
冷蔵庫にはひからびたキャベツの切れ端
空のマヨネーズ かちかちの納豆
あいにく魚は買い置きがない
ないならあんた買ってきなさいよほんとにぐずなんだから
猫はおんおん吠えたてる
耳のうしろをすうすう風が流れていく
もう夜も夜中の丑三つ時で
店はどこもがま口みたいに閉まっている
どこに行けば魚が買えるんだろうか
そんなの決まってるでしょ子供部屋見てみなさいよと
言われてはっと思い出したが
子供部屋にまん丸い金魚鉢
大急ぎで抱えてきて庭にぶちまけてやれば
そういえばあんた 子供はどうしたの?
口の端で猫が言う 曲がった口でにいっと笑う
そういえば
去年の春まで緑色の三輪車に乗っていた女の子は
どこに行ったんだろう
あの子はどこに行ったんだろう
地面の下でさっきから猫が噛んでいる
こりこり こりこり
あれは一体何なのだろう
猫はどうして笑っているんだろう
どうして朝は来ないんだろうか


自由詩 夜中の猫 Copyright 春日線香 2015-02-15 04:31:36
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