都心に雪がふると
石川敬大

 都心に雪がふると
 もう あともどりができない
 地方都市は
 いよいよ寡黙になる
 川を
 はさんで
 魚たちは遡及する
 ときおり鋭利な水性植物になって川底でひかる


 風の攻勢が強まる
 と
 海波はさらに香りを増して
 港湾施設を
 イナゴの大群のように襲うだろう
 メタリックを軋ませる刺客がふいに斬りつけてくるように
 博多湾は
 双つの翼をひろげる
 島影を
 額に淡く写しとっている
 商店街はすでに南北にのびきってしまったので
 あした
 の
 昏睡を迎える支度に忙しい
 博多ラーメンの店先では暖簾がしきりにうなだれて
 影のようなカラスが鳴き交わし
 ひとが
 呼吸をととのえる前にせわしない雲に
 急かされて
 ゆく


 書き記した言葉なら
 ずっと記憶にとどめておこう
 と
 おもう


 都心に雪がふると
 つめたく鋭利な海風が頬を斬りつけてくる
 きみは
 そんな日も
 ある覚悟をもって
 定められた
 きょうのバスにのってゆく




自由詩 都心に雪がふると Copyright 石川敬大 2015-02-12 14:52:13
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