宛て先
アンテ


郵便配達人は
来る日も来る日も手紙を配りつづけた
高い塔は目をこらしても先端が見えず
螺旋状の階段にそって扉が等間隔にならんでいた
郵便配達人は封筒の番地を探したが
扉の数字の順がでたらめで
なかなか目的の番号が見つからなかった
ようやく見つけても
住人は突然の訪問を責めたり
配達が遅いことを罵り
手紙を読みもせずに細かく破り捨ててしまった
郵便配達人が手紙の断片を集めて
苦労してもと通りつなげ合わせると
宛て先の番地は違う数字になっていた
この番地で手紙を待つ人がいるかもしれないと思うと
止めてしまうわけにもいかず
郵便配達人はまた階段を歩きはじめた
ところがある時
番地がどうしても見つからず
郵便配達人は先へ先へと螺旋階段を登りつづけた
塔は彼方までのびていて
どこまで行っても終わりが見えず
息が乱れ
足どりが重くなり
それでも手紙を握りしめて登りつづけるうち
階段の傾斜が次第にゆるくなり
気がつくと平坦になっていた
郵便配達人は立ち止まり
深呼吸をして
そしてまた歩きはじめた
やがて道はひとつの扉に行き当たり
そこには手紙の番地が記されていた
郵便配達人が扉を叩くと
中から女性が顔をのぞかせた
彼女がつぎはぎだらけの手紙を開けると
「ただいま」と記されていた
彼女に勧められるまま
郵便配達人は食事を取り
温かいお茶を飲んで
やわらかい布団でぐっすりと眠った
次の朝早く目が覚めて
出かけようとすると
彼女が手紙を差し出した
「いってらっしゃい」と記されていた
郵便配達人は手紙に封をして
礼を言って
昨日来た道を歩き出した
途中で振り返ると
扉のまえで彼女が手を振っていた
見えなくなるまで
いつまでも手を振りつづけてくれた



自由詩 宛て先 Copyright アンテ 2003-11-08 01:48:17
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