凍らない水
まーつん

 移りゆく事象に
 普遍性を見出そうと
 あなたは時を凍らせた
 記憶という名の冷却剤で

 汗ばむ肌に下着を貼り付け
 冷えた板張りの床の上
 道に迷った子供となって
 膝を抱えて座り込む

 綴じた瞼の裏側に
 愛しい誰かを閉じ込めて
 窓から注ぐ朝の光も
 カーテンを揺らす風の息吹も
 意識の内から締め出せば

 思い出の中から、
 歳ふることなき美しさを湛えた顔が
 永遠に溶けない微笑みを浮かべ
 あなたを見詰め返してくる


 でも、知っていますか


 時は凍ることのない水
 あなたにも、私にも
 その流れを止められない

 泳ぎ回る私たちは、いずれ
 魚のように釣り上げられ
 岸へと投げ出される

 昨日も、明日もない世界に

 時の流れの片隅にある
 小さく隠れた吹き溜まりの中で
 尾びれを打ち振ることも忘れ
 ゆっくり、グルグルと
 漂うだけのあなた

 傍らに
 寄り添っている私の姿に、
 どうか、気付いてくれませんか


 
 その瞼を開いて





                                2015.1.25


自由詩 凍らない水 Copyright まーつん 2015-01-25 09:26:19
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