冬、はじめました。
クローバー

世界が沈むことを早くしている
今日を忘れないようにしよう

魚は寒くないの
だいじょうぶよ

鳥は寒くないの
だいじょうぶよ

並木道には自転車と五十代と思われるジャージの夫婦
手を引かれている子供とその母親、部活帰りの若者
人の見本市
私はいない
マイナなんだろう
体感気温は心の在り様で変わる
そうなのか
そう
あの子ぐらいの時には寒さは母によって和らいでいたような気もする
主観的な過去はもう全て憶測
ぬくもりと光を供給していた太陽が赤くなっていく
悲しいことは物理的な喪失から生まれる
夕焼け
初めから持っていなければ、まるでそうともわからないまま
母の手を求めてしまう

木は寒くないの
だいじょうぶよ

聞こえる
名前を呼んでいる
名前なんて記号、特別な記号、メリーゴーランドの電源の鍵

ママ
小さな影が大きな人影に吸い込まれる
もうそろそろ帰ろうか
もう帰るの
寒くなって来たしね
冬がはじまるの
そうよ

冬、はじめました。
質量の大きいものを軸に主観が落ちていく
世界が沈んでいく
そうだね、帰ろう
ジャンパのポケットを探る。


自由詩 冬、はじめました。 Copyright クローバー 2014-12-02 22:43:03縦
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