手をとる
鵜飼千代子

佇んでいたのだろう
あの時のわたしは

苦手なことを並べた
傷付きたくなかった
それでも出会いを求めて
やって来た

缶ビール片手に
やわらかな言葉で話す
路上に座り込み
生活者と一緒に飲んでいる

道路使用許可について問いかけた警官に
食いついて行く、静止しようと仲間が羽交い締めにする

「ああ、そこに精霊が、、、」
と、目を泳がせ
それに同調する人もいる

高校の新入生歓迎会の時に
新入生を弄るために行われた
「カトマンズ」というゲームのアレンジのような申し合わせなのか
本当に見えているのか
わたしにはさっぱり見えないので
考えていた

食べ残すのが嫌で
外食する時には
なかなか注文が決まらなかった

当時のわたし。

神谷バーで、
エビピラフを頼んだけれど食べきれなくて
お皿を睨んでいたら

「もう、召し上がらないですか?
いただいてもいいでしょうか?
大村さんいただきましょう。」
と、嬉しそうに食べてくれた。

レンジでチンした
冷凍ピラフのような味
冷凍ピラフはおいしいけれど
食べきれなかった

食べ残さずに済んでほっとしたけれど
あんまり嬉しそうだったので少し気持ちが悪かった
大村さんは苦虫を噛みつぶしたような顔で付き合っていた
わたしが食べていたスプーンだった

手をとる

立ちすくんでいるわたしの
手をとる

17年前
そのときわたしは30歳だった

蘇る様々なこと
その時に感じていても
素直に受け止めきれなかったあれこれ
しずかにしずかに
沁みてくる

手をとる

あの時わたしがしてもらった温もりを
わたしは誰かに手渡せるだろうか





手をとる

手をとる

生きている確かさを
交換する
瞳を見交わす





自由詩 手をとる Copyright 鵜飼千代子 2014-11-24 03:23:08
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