浄化
夏美かをる

トイレに駆け込み排便する
ああ、すっきり!
尻までしっかり手を伸ばして拭き取った後
レバーを下げれば
ばい菌まみれの そのおぞましい物体は
あっという間に流れ去る
そのうち臭いも消えるだろう
鼻歌交じりに手を洗い、ドアを閉め、
すっかり浄化されたつもりで
お洒落着に着替えようとしているけど、はて?
私が垂れ流した汚物は一体どこへ行くのだろう?
誰かが汗水たらして埋めた下水管を通って
辿り着く名も知れぬ処理場のタンク
そのモニターの前では
四六時中監視を続ける
誰かの厳しい目線があるのだろう

赤ん坊がうんちをする
すかさず慈愛溢れる手が伸びてきて
小さなお尻に優しく触れる
そうして 形状、色、臭いまでも
厳格にチェックされた後
それはまるで愛しいものであるかのように
丁重に包まれ収められる
ピカピカに浄化された赤ん坊は
再び静かな寝息をたて始める
同じ手が形作る揺りかごの中で

老人が排泄する
プロ意識に裏打ちされた手袋をはめた手
或いは悲哀とため息が染み付いて
言うことを聞いてくれない手
とにかく どこからか手は伸びてくる
顔をしかめるくらいは許されるだろう
強烈な悪臭と戦いながら
皺だらけの重い体を回転させて
どこもかしこも清めなければならないのだから―
便が飛び散ったシーツまで洗浄して
やっと握り締める束の間の浄化

立派なスーツを着込んで
バーバリーの傘を振り回しながら
駅のトイレから躍り出てきた紳士
しっかり化粧直しまで済ませて
足早にデートに向かうこぎれいなお姉さん
あなた達は浜口国雄氏の書いた
『便所掃除』という詩を読んだことがあるか?
さっきあなた達が落としていった糞便は
キンカクシの裏にこびり付いたままではないのか?
何も汚さないで、
誰の手も煩わせないで
あなた自身を浄化させることなど
到底できやしないのだ


自由詩 浄化 Copyright 夏美かをる 2014-11-17 16:35:32
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