ボクの名画座〜映画あ〜じゃこ〜じゃ〜第二館
平瀬たかのり

★第一館での紹介作
『竜二』『遠雷』『櫻の園』『ソナチネ』『コミック雑誌なんかいらない!』
『TATTOO〈刺青〉あり』『瀬戸内少年野球団』『BU・SU』『麻雀放浪記』

 第一館はこれでもかというくらい私情でまくりで(いや、今後もその方向性なんですが)ちょっと年代的に70、80年代のもの中心になってしまったので、今回はなるべく近年のものをご紹介させていただきましょう。

?『歓待』(2010)
〈監督、脚本=深田晃司>

 「招かれざる客」ストーリー。父の知人だったという、うさんくささ全開の男が、なし崩し的に家に棲みついてしまい、そのうち外国人の嫁さんもなし崩し的に同居しはじめ、それまで平穏を保っていた一つの家族が、各々がかかえる秘密を男に知られることにより徐々に崩壊していく。男がこの家族に入り込んだ目的とは果して……というようなお話。
 特筆したいのは男に入り込まれる家の後妻役で出演している杉野希妃。本作のプロデューサーもやっており、映画監督でもある彼女。経歴みたらまぁスゴイ。こういう女性を「才色兼備」っていうのだろうなあ。
 まだ30歳。若くして才を認められ世に出た女性ってのは、どうしても周囲がチヤホヤするだろうから(女優さんなんてなおのこと)天狗にならず、これからもいい作品を世に送り出してほしいなあと、凡人のボクなんかは思っちゃいます。
 まぁでもプロデューサーというのは各方面に頭下げるのも仕事のうちってところもあるのだろうから、きっと大丈夫でしょう。監督、杉野希妃の作品もぜひ観てみたいです。


?『接吻』(2008)
〈監督=万田邦敏、脚本=万田邦敏、万田珠実>

 凶悪殺人事件の死刑囚、死刑囚を愛してしまい獄中結婚までする女、女に惹かれていく死刑囚の弁護人。
「究極の愛」などという惹句は映画宣伝文句としてありがちですが、確かにこれは平凡な地平からは遠いところにあるラブストーリーでしょう。でも、主人公の女性にとってこの死刑囚を愛することは「普通」のことだった。彼女の「普通」に対して違和と共鳴を繰り返しながら物語にどんどん引き込まれていきます。
 そして「えっ!?」となるラスト。たぶん作り手も演じ手も答えが分かっていないラスト。あのラストの自分なりの答えを見つけるために、近々再鑑賞しようと思っています。
 しかし主演の小池栄子。とんでもないことになってます。『八日目の蝉』観た時に「あれ、こんなに演技上手かったんだ」と思ったんだけど、上手いなんてものじゃない。目が完全にイってる場面も多々あった。役に憑依しきってたんだと思う。これからの邦画界を背負って立つ女優さんになるのではないでしょうか。


?『海炭市叙景』(2010)
〈監督=熊切和嘉、脚本=宇治田隆史>

 本当に素晴らしい作品。オムニバス形式でストーリーが進んでいき、そのすべてが静謐で真摯に描かれる。
 生きるということはこんなにも切なく辛く、時に酷い。けれど人は日々の地平をのたうちまわりながら歩んでいかなくてはならない。声高にメッセージを伝えているわけではない。それでもこの作品からは「それでも生きろ」の声が確かに聞こえてくる。
 何か一つカラッと明るいエピソードがあってもよかったのではとも思うが、もしそうしていたらそれが傷にになっている可能性もある。
 加瀬亮、竹原ピストル、小林薫、南果歩…演技陣もみな素晴らしい。ことに谷村美月。「映画女優」と呼ぶにふさわしい実力と存在感は、この年代の女優さんの中では抜きんでていると改めて思った。
 鑑賞したことを誇りにすら思えた、これから何度も観返すだろう作品。


?『おっぱいバレー』(2009)
<監督=羽住英一郎、脚本=岡田惠和>

 とっても爽やかな青春映画。
 最初ちょっとザクザク話が進み過ぎて「岡田さんの脚本好きなんだけど、これは漫画かなぁ……」と思うんだけど、そこを救い作品世界に引きずり込んでくれるのがのがすばらしい挿入歌の数々。いいですか、全曲いきますよ〜。

ピンクレディー「渚のシンドバッド」
チューリップ「夢中さ君に」
荒井由実「ルージュの伝言」
矢沢永吉「ウィスキー・コーク」
浜田省吾「風を感じて」
甲斐バンド「HERO(ヒーローになる時、それは今)」
尾崎亜美「オリビアを聴きながら inst.」
荒井由実「卒業写真 inst.」
ツイスト「燃えろいい女」
永井龍雲「道標ない旅」
キャンディーズ「微笑がえし」
(主題歌はフィンガー5「個人授業」のカバー)

 どう、どうよこれ! もうこの曲のラインナップだけでおっちゃんおばちゃん血沸き肉踊るってなもんですわ! 居酒屋の場面で「HERO」流れた時なんか「うぉ〜!」って叫んだもんな(笑)。こんなに挿入歌が効いてる作品観たのって初めてかも。
 設定を1979年にしたの、ホント大正解。でもって物語が進むうちに岡田さんの脚本もきっちり笑わせて泣かせてくれて、満足満足。
 みんなで観て、もっかい観直して、一時停止くり返して、ニヤニヤ笑いながら語り合いたくなる、そんな作品に仕上がってると思います。
 おっぱーい、ばんざーい!


?『さんかく』(2010)
〈監督、脚本=吉田恵輔>

 鑑賞前は「あ〜ラブコメかぁ…」って全然期待してなかったけど、これ、面白かったんですよ。やはり映画鑑賞において先入観持つのはは禁物です。
 高岡蒼甫と田畑智子が恋人なんですけど、これがまぁとにかくバカップル! 
 かたやいい年こいて車の改造に400万かけるバカ。かたや友人のマルチ商法に見事にハメられてるバカ。もう二人ともホントにバカ。で、そのバカ二人の間に年の離れたロリロリむっちんな天然バカの妹が同居し始めて、いずれのバカにも拍車がかかってさぁ大変(笑)。
 でもねぇ、そのうち笑えなくなってくるんですよねぇ。愛しく感じてきちゃうのですよ、この三人が。特に高岡君。あなたが演じた本作でのおバカっぷりは、本当にお見事でした。


?『川の底からこんにちは』(2010)
〈監督、脚本=石井裕也>

 これはけっこう鑑賞されてる方多いかも。
 「どんなジャンルの作品でも、映画は人間のおもしろ悲しさ、悲しきおもしろさをきちんと描かなくてはいけない」っていう個人的な思いが強くありまして、そういう意味ではこの作品はまさにホンモノの映画なんです。
 全世界の諦め、ダメダメ、投げやり、捨て鉢を凝縮して煮詰めたような主人公が開き直って突き進んでいく様はまさに『人間賛歌』と呼ぶにふさわしい。そして主人公演じる満島ひかり、本当にすばらしい。
 新作『バンクーバーの朝日』も大期待の石井裕也監督、83年生まれ。ホントに才能ある監督だと思うのですが、この作品に代表される彼の作品の「目線の低さ」はいったいどこからくるものか。その理由として、これは全く推測なんだけど、卒業制作『剥き出しにっぽん』を撮るために、友人四人と働きまくってみんなで400万円稼いだそうなんですね。以降も自主製作映画をコツコツ作り続けてきた。その時きっとキツイアルバイトもたくさんして、額に汗して働いて働いて頑張ってる人間にたくさん触れたんじゃないかと思うんです。その労働体験が監督としての血肉、核になってるんじゃないかなぁ、と。これはホント、全くの憶測、推測なんですけども。
 この映画のコピーは「人生…もうがんばるしかない」。いや、ほんまもう「がんばるしかない」ねんな、人生って。 素直にそう思わせてくれるんですよこの映画。
 これ公開当時劇場で観た人はきっと大いに泣いて笑ってね、「あぁ、ボクの、ワタシの人生もこんなことの繰り返しやなぁ。けど明日からもがんばるしかしかたないやんけっ!」って胸張って帰路についたんじゃないかなあ。
 まだこの映画のホームページ、公開されています。そこで『木村水産・社歌』が聞けます。聞いてください、笑ってください、元気になってください。そしてできればこの映画、ぜひご覧になってください。



?『キューティーハニー』(2004)
〈監督=庵野秀明 脚本=庵野秀明、高橋留美>

 しょうもないリメイクだったら三十分以内に観るのやめ! と心してかかって観たんだけど……
 おいおいおい、おもしろいやないかい、これ!
 作品を敬愛敬慕しながら、原作の設定借りたオリジナルになってる。オリジナルだから、原作、アニメのハニーのイメージとは違うんだけど、サトエリちゃんで全然かまわないんだな。
 効果的に使われる実写とアニメを融合させた「ハニメーション」も生きてて、出てる人みんなが楽しんでかぶりものの特撮やってるのが伝わってきて、観てるこっちも楽しくなる。意外と多いんですよね、演じてる側だけが楽しんでて観てるこっちはほったらかしっていうこの手の作品。
 興業収入振るわなくて、製作会社潰れるきっかけにもなったそうなんだけど、なんでかなぁ。でも秀逸な娯楽作品として今から評価高まっていくと思います。
 例えばですね、何の予定もない連休の初日にね、休みなのに早く起きちゃってね、家の用事とかパパッとすませちゃってね、ちょっと早めのお昼ごは〜ん。満腹満腹。ああ、もう早いけどお昼寝しちゃおう。で、目を覚ましてもまだ午後一時前。時間はまだまだたっぷし。明日も休みだうふふのふ。さてこれから何しましょう。あ、そうだ映画観よう!何観ようかなぁ……てな気分の時に観るのが最高の鑑賞のしかた(笑)。でもそういう「幸せな作品」ってね、映画の本質ついたとっても優れた作品だと思うのです。
 この作品からもう10年経ってるんですね。最近のリメイク作はほとんど観てないのですが、何本か観てこの作品と比べてみたいですね。


?『木曜組曲』(2002)
〈監督=篠原哲雄、脚本=大森寿美男>

 鈴木京香、原田美枝子、富田靖子、西田尚美。はいっ、全員好きな女優さんですっ!
「映画は女優で観ろ」って評論家の秋本鉄次さんが言ってるんだけど、ボクももろ手を挙げてその意見に賛成。彼女たちの女盛りの美しさを鑑賞するだけでも観る価値あり。その上浅岡ルリ子と加藤登紀子がビシッと締めてて見応えもたっぷり。
「彼女はなぜ死んだのか?」を五人が推理し、互いに疑心暗鬼になっていきながら、真相を探っていく、その三日間の出来事を描いているストーリーなのですが、こんなふうに作品の中で経過する時間は短いほうが、その世界に入り込めるように感じています。「三年後」とか字幕で出されるとどうしても「その間のコイツの人生の中にドラマはなかったんかいな」とツッコミいれたくなっちゃうわけで。
 ただ、本作でのパスタソースの場面。あそこ、分からないのですよねえ。「じゃあ本気の殺意があったってこと?」になってしまうし…ネタバレになるのでこれ以上は書きませんが、これ読んで鑑賞されて分かった方おられましたら、あの場面の真相、ご教授くださいませ。


?『リンダリンダリンダ』(2005)
〈監督=山下敦弘、脚本=山下敦弘、向井康介、宮下和雅子)

 ちょっと最後昇華されすぎなんですよね。同じ文化祭のステージがクライマックスの作品でも、ひねくれ者のボクはやっぱり『BU・SU』のあのやりきれなさを支持したいんだな。急ごしらえのバンドがそんな上手くなるもんか? って思ったりもする。
 でもやっぱりこの作品は近年の音楽映画、青春映画としては出色の出来だと思うんですね。ブルーハーツを女子高生に歌わせるっていうのがいいんだよな。でもって、ボーカルは韓国からの留学生。「えっ、そう来ます?」っていうのが基本設定として二つあることでグイグイっと世界に引き込まれちゃう。
 トイレの手洗いでのね、香椎由宇とぺ・ドゥナのシーンがいいんですよ。「ああ、そうだよな。いろいろあるけど、そう在りたいよな」って思う名場面なんです。


?『かぞくのくに』(2012)
〈監督、脚本=ヤン・ヨンヒ>

 気になっててずっと観たかった作品。
 25年ぶりに兄が「あの国」から帰ってきた。脳に病を抱えて、監視役の男と共に。その時家族は、友人は……
 期待に違わず素晴らしく、大きな余韻と痛みを残す作品でした。
 ネタバレになるので多くは書きませんが、主人公の兄といっしょにに一時帰国する女性がいるのですが、その設定が設定だけに、本編ストーリー以上の悲しい顛末になってしまっていて…辛かった。彼女を全くと言っていいほど描かなかったのは、「敢えて」なのかなぁ。
 深く、重い一本。かぞくで、ひとりで、ぜひ。


散文(批評随筆小説等) ボクの名画座〜映画あ〜じゃこ〜じゃ〜第二館 Copyright 平瀬たかのり 2014-11-16 16:04:37
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