100
イシダユーリ


赤ん坊は
夕暮れに
いつまでも
放り出されている

大人は
夜に
かえっていく

夜じゅう
あのときは
美しかったと
小さい声で
話している

顎に火を受けて
あのとき
美しかった

あの空に
誰の手も
離れて
あの赤ん坊が
浮かべば
もっと
美しかったろうな

そう
一瞬だけ

そのあとは
泣き声も
なく
飛沫が
とぶ

そのぶん
わたしたちは
一生
責められる
一生
責められる

笑いながら
びしょぬれに
なった

胸を
手で隠して
落ちた
コップの
かけらを
ひろえば
朝が
そこに
うつっている

まだ息が聞こえる
美しい
それは
胸をえぐる
生きている
という事実
それは
物理的な
穴と塊

まだ息が聞こえる
きみの顔に
土くれを
べったりと
塗る



遠くで
煙があがっている
あの
煙を
すこしずつ
吸い込めば
眠りがすこしずつ
浅くなり
もう
眠れなくなる

その頃には
きみは
夕暮れから
落ちて
産まれなければ
よかったと
言う

わたしたちも
夜には
産まれなければ
よかったと
言うんだよ
けれど
夕暮れは
言葉を
習っていない
そして
きみは
明日へと
足を
踏みはずすこともできる


自由詩 100 Copyright イシダユーリ 2014-11-09 22:16:17
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