ドギーの午後GO
salco

わん、わんわん!おい、そこの!
きさま男か? 嗅いだ事ねえ野郎だな
どこのどいつだ、え?
いっぱしのメンチ切りかよ上等じゃねえの
ここらはぜんぶ俺のショバだからなァハァハァ
そこに小便したらタダじゃおかねえぞあ!
しやがったなこの野郎
許さねえ
許さねえぞコラ、戻って来やがれ! 
おい!
おーい
ちくしょう、飛び出して行って匂い嗅ぎたいなあ
そしたら一発でケリがつくのに
ケリがどうだって俺の栄光が上塗りだ
こんな紐さえなければなあ! アフ、アフ、アフ!
いっぺん牙も試したいもんだ
ガッシと首に食いついてブンブン振り回してやる
ぺディグリーチャムは歯応えないからなぁ、好きだけど
すんげー好きなのにアッという間にカラッポなんだ
いっぺんおかわり出ないかなあ!


あんあん!いいなあ
ボクも早く戸外活動に行きたいよお!
ご主人は何をしやがっていらっしゃるんだろう
ちびりそうだよ
朝からずーっと、全部ためて我慢してるんだ
破裂しそうだよ
好きな時に小便も出せないとはなあ!
こんな不幸があるか?ないよ
小便と糞ではちきれそうなんだぞ?
存分に出して回りたいよ
遠くの遠くの遠くまで出し尽くしたい
渇望と小便と糞なんだ
それがだめならいつもの所でも
自由が許されないなら
せめて歩きたいよぉぉぉぉおぅうん
譲歩と渇望と歩行だ
違う!つべこべ言わずに早く出したいぃ
渇望と小便と糞
あっ、メシもだ
山盛りのメシ
それからりんごちょうだい、するだろ
違う、ガムも噛みたい、歯がゆい!
ガムとりんごとメシだ
メシとボールとお人形
違う!ボールの後はミルク飲むだろ!
ボールとミルクとお人形っ!
お人形と毛布と、ううう
小便小便小便したい
違う、糞もだ


さて次はあの石柱だ
さあ若頭ちょっと急いで
いえ、あの、小走りしたいんで
あの、つまりあの柱まで
すぐそこですから、お願いします
走らせてやって下さいよ、いてて!
そんなに引っ張らないで下さい、首が絞まっちゃいますから
一日二回しか出られないあっしの身にもなって下さいよ
それもあなたさまがたの都合次第
雨の日なんか一日つながれているんですよ?
長い長い何もなしをずっと小屋に座って
このひと時をひたすらに待ちわびているんですからさぁ
ふんふん、こないだ嗅いだ草だ
土はどこだ? 土堀りたいねえ!
鼻ツッコんで掘り掘り、掘り掘り掘り掘り
掘りまくって転げ回るんだズリズリ、ズリズリ
ズたた!
はいそうします、どうぞお仕置きはしないで下さい
またそんな
あなたさまが「チッ」と舌打ちした音でビクッとしちゃいます
敏感で多動、好奇心と条件反射のかたまりだもんですから
ええ、素地で素行、素質と素養


だめ! 止まれ!
そうそう、早く早く
ああ楽ちん、やっぱり空中移動に限るわ
でも臭いのよね、この女
鼻が曲がるわ、頭まで痛くなる
こんな毒ガス年がら年じゅうプープー吹きかけてさ、愚鈍の極みよ
だから口あけてるのあたし
バテたから口呼吸で舌だしてるのと違いますから、言っとくけど
あたしは我慢に我慢をかさねているのよ毎日
こんなの着せられてさ、脱げないんだから
夏は熱くなって息ぐるしいは、クラクラして来るは
今だってチクチクするのよ毛に当たって
当たった毛がモゾモゾ動いて刺さって来るのよ!
このバカ女、降ろしてちょうだい
あんたってほんとに意地悪で不愉快よ、降ろして!
まったく、ばっちい地面の匂いの方がずっといい
どうして群れから追放しないのかしら
お給仕と外出のお供なんか、ほかの者でもいいはずよ?
シャンプーだって毛づくろい女の方が上手だし、臭くないし
注射怪人の監獄に入れられた時だって、女看守の世話を受けたわ
あたし何も悪い事してないわよ、言っとくけど
よっぽど何か事情があるのね、冷遇したら咬み切られるとかさ
注射怪人に謀ってあたしと同じ目に遭わせるとか!
お気の毒なパパさま、かわいそうなあたし!
胸が痛いわ、帰ってきたら慰めてあげないとパパさま、大好き
世界一えらくて強いのよ、あの靴下の匂い! 足ゆびの匂い!
もーたまんない、うっとりしちゃう
ちょっとバカ女、帰るわよ
抱っこしなさい


もう折り返しの匂いじゃないか?
何て事だ、ああ慈悲深い母上
すがる気持を涙目に籠めて見上げておりますのに!
もう少し、ほら、あの角を
例えば今日は曲がってみましょうよ
絶対いい事があるような、そんな気が
ね、あっちに行って閲してみましょう
ヒッ!
はいはい、そっちですね?はいはいはい
あーあ、今日は女子に会えないのかなぁ
あのすてきな匂い! 
思い出すなぁジュリエット、深窓のセクシーダイナマイト
忽然と消えた君、今頃はどこで何を?
ただ一度の逢瀬、あれは秋だった
犬広場の千載一遇
新入りのまごつきを突いた一閃の脱走劇
まっしぐらに走ったんだ、甘やかな君の元へ
翌朝から順路を変えられ、あれは春だった
タマの疼きに目覚めると、首から下が塞がれていた
やっと妙な覆いが外されると、タマが無かった
そしてなつかしい道を赦された冬
朝霜の生垣に優しい吻の匂いをかすかに残して
ああ、犬恋しいとはこの事だよなあ…


俺はやった事がねえ
しょっちゅう萌えてる気もするが、何せハッハッ
はけ口がねえよな、はけ口が
はけ口って何だ? 
あー、コレのアレでもってソレか
どんなもんだろうね
どんな感じ?
大体のところ
少なくとも五、六回以上は冬を越したと思うが
一度もやってねえとはな、うかつなのか不運なのか
情けねえ情けねえ、あーあ情けねえ
初老の童貞ってか、笑えるよな
いや笑い事じゃねえよ
って事は、……………え?
ええっ、このままずっとそうなのか? 
いや、考えたくもないね
そう、考えまい
何より重要なのは、今この時
運動性版図確認業務だ、ハッハッ、ハッハッ
おっ??? 
何だ、なまくらか
いけすかない種族だよ、陰険な目つき
小者のくせに愛想なし、何かと見下しやがって
ああいう尊大な無表情って、ヒト的にはどうなのかね
表情と抑揚の錯綜で集団秩序を保つヒト族としてだ
おざなりと欠伸しか返さねえ腹黒の冷血漢と?
解せないねえー、俺にはそういう屈折交流
えっ?
もう家の前ですかい? ええええっ!


自由詩 ドギーの午後GO Copyright salco 2014-11-03 21:32:41
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