あきらめの悪い男
イナエ

           
    世の中にはあきらめの悪い男や女がいて
    失敗にもめげず研究を重ね
    ときには世間を驚かせるけれど…

昨年 クリスマスに
かがり火を焚いたシクラメン
男は翌年も咲かせる技に挑戦した

温室もハウスも持たないおとこは
花の咲き終わった鉢の水を切り
日陰と風通しの適度な場所を探して
移動させる日々

ふっくらした豚のマンジュウに生えた葉は
おとこの努力に応えて
夏の暑さに耐え 秋口になると
二枚の葉を出して 秋の風を招き
蝸牛の目のような小さな花芽を付けて
当たりを眺め始めた

後は成長を促すこと
肥料を与え 水の管理も怠ることなく
冬の訪れを楽しみにしていた
その矢先 襲った台風豪雨
豚のマンジュウは水浸しになり

台風一過の強い日差しに蒸されて
葉は萎れ 
次第に乾燥していく花芽

おとこは鉢の土を入れ替え
再び待つ
豚のマンジュウが艶を失っても
見ないことにして

註 篝火花 豚のマンジュウ=シクラメンの別名
  花柄の花の咲いた様子がかがり火に似ている所から篝火花
  茎に当たる部分がマンジュウのような形だから豚のマンジュウ


自由詩 あきらめの悪い男 Copyright イナエ 2014-11-03 09:43:19
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