「メビウス」
桐ヶ谷忍

長く白い廊下を歩いている
窓のない、一人分の幅しかない廊下を
私はただ延々と無言で歩いている

平易な路程ではなかった
ある時は出口を求め走りに走り
またある時は壁にすがり壁を壊そうと叩き体当たりし
幾日も屍のように横たわっていた事もある

けれども結局
廊下は変わらず続いているし
私は歩いていかなければならなかった
出口があると
信じて

廊下の壁越しに
何度か他人の気配を感じることがあった
彼らはどのような路程を歩んでいるのだろう
彼らの行く道に窓はあるのだろうか
出口は見えているのだろうか
独りなのか連れ合いがいるのか
俯瞰図がほしいと
何度願った事だろう

つるりとした白く続く廊下を
どこまで行けば
誰かに出会えるだろうか
どこまで歩めば
出口が見出せるだろうか

そもそも出口はあるのかないのか
あるとすればどこに出られるのか
何より

なぜ私はこんな所を歩いているのか

ともかくも
私は独りだったし
今も独りだ

歩きすぎて擦り切れた血の足跡を残しながら
私は、もうどうしようもなく

絶叫した

その声すら、まだまだ続く廊下に吸い込まれていった


自由詩 「メビウス」 Copyright 桐ヶ谷忍 2014-10-29 17:25:45
notebook Home 戻る  過去 未来