大人の国
salco

待ちに待った夜が来て
冷たい風が触れ回る
枯葉を転がし踊り出す
カリアッハ・ベーラ冬女王の布告だよぅ
ゥゥゥウウー カラカラカラ…
南の御座にはケリドウェン冥府魔女
出でよ、かわいいお化けたち!
知らしめ脅かし、せしめておやり
でもお急ぎよ、遅くなる
月影は翳を照らさない
裏側も、下 奥 すき間 洞と穴
ほんとのお化けが出るかもよ
魔物 幽霊 殺人鬼、金欠亡者 変質者
悪い大人が出るかもよ


寄り道したらいけないよ
山盛りお菓子の待つ家が
明かりを燈している内に
宴はどんどん冷えてって
しじまの底にひそまるよ
あんまり遅くに来る子には
たとえお菓子があまっても
おつき合いはできないね
おふろに入るしゴハンを食べて
宿題やったらカバンに入れて
大人だって寝てしまう
夜はまだまだ長いけど
大人の明日は仕事があるし
生きてる子には夢まで叶う


お手製の三角帽子をかぶったり
百均の断熱シートをはおったり
思い思いの仮装を凝らし
住宅街を行くこだま
「お菓子くれなきゃ
    いたずらするぞ!」
なりたて大人やなりかけは
おめかし入れてネオンの方へ
ハンズで買ったりネットで見たり
土日ミシンで縫い上げたのを
駅のトイレで着替えたり
度胆抜くより羽目を外しに
下心なしのお化けらに
便乗したくせ離れて行くね
大きくなっては仕方がないさ
はしゃぎたいのは大人も同じ
だのに外しが過ぎて悔んだり


「お菓子くれなきゃ
    いたずらするぞ!」
練り歩く子らの後ろには
離れてひとり普段の子
遅れまいとついて行く
風にはためく薄物の
みっともないほど汚れたなりで
ひときわ蒼い顔をして
呼ばわるでなく泣きもせず
先行く子らは知らん顔
気のつく大人も見咎めない
散歩の犬さえ嗅ぎつけない
そこにいないからだろう
いつぞや夏に殺されて
どこぞの林に埋もれてるのさ


さあさあ!そろそろ遅くなる
招かれざる者専用の
いつものこわい世が迫る
もらった子らには戻る頃合い
大人も戸締まり店じまい
だから今年も二叉路にひとり
どこかわからず立っている
呼ばわるでなく泣きもせず
国の時計の針はどれも
ひとえに天を指すのに誰も
探してないし連れてかない
ケリドウェンも寝屋へ行き
人っ子ひとり通らなくなり
帰りたいのにわからない
親に殺されたのだから!


自由詩 大人の国 Copyright salco 2014-10-25 23:14:18
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