姉たち
佐々宝砂

末の娘は末の娘なので
どんな失敗をしても許されます
開けてはならない箱を開けてしまっても
池の水をうっかり飲んでしまっても
くしゃみしたあと神の名を唱えなくても
閉じてはならない扉を閉じてしまっても

ほら森の木陰から池の深みから
たくさんの救いの手が
小さなミソサザイ
賢いカケス
ノルウェーの茶色い熊
虹のうろこの小魚
夜空に光る月にいたるまで
みんながみんな末の娘を助けることでしょう

姉たちは姉ですから
どんなことをしても失敗します
開けてはならない箱を開けてしまう
池の水をうっかり飲んでしまう
くしゃみしたあと神の名を唱えない
閉じてはならない扉を閉じてしまう

それで姉たちは罰されます
姉たちは姉であるがゆえに
ミソサザイに突かれ
カケスには馬鹿にされ
ノルウェーの茶色い熊に半殺しにされ
虹のうろこの小魚に水をひっかけられ
夜空の月は顔を隠し
姉たちは闇の中をうなだれて歩きます

姉たちはわたしの同胞です
わたしも姉たちのひとりです
闇を歩くのはいたしかたありませんが
せめて顔をあげてゆきましょう

姉たちのひとりとしてわたしは進みます
姉たちのひとり
足が大きすぎただけの普通の娘と腕を組み
姉たちのもうひとり
薔薇ではなくバイオリンをほしがっただけの普通の娘と声をあわせて

罰された姉であるわたしたち
成長しても
焼けた鉄の靴を履いたお妃になるわたしたち

顔をあげてほほえんで
進んでゆきましょう
昏い方へ
昏い
昏い方へ


自由詩 姉たち Copyright 佐々宝砂 2014-10-16 09:26:21
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