秋の抽斗
そらの珊瑚

新米を握る母の手は
燃え始めたかえでのように色づき
かぐわしい湯気を蹴散らしながら
踊ってみせる
熱いうちに握らないと
美味しくないのよと
まつわりつく子に言いながら

端をほんのわずか切り取られた
小袋の中身は
時間という小人が
――彼らの食欲はそれはもうみさかいなく凄まじいものだから
食い尽くしたのだろう
ことごとく
からになっていて
透明な成分だけが
これからやってくる
季節のための
セーターの毛穴の中に
宿っている

誰かのために生きている
――わたしの中のささやかな抽斗ひきだしにも
それを忘れてしまいそうなとき
可逆性樟脳がチカッと香る


自由詩 秋の抽斗 Copyright そらの珊瑚 2014-09-28 14:16:42
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