快速処方箋
ただのみきや

苦行に明け暮れサラリーマンは電車の棚で蛹になった
無関心という制服に包まれたシュークリーム並の少年たちが
耳におしゃぶりを挿したまま喃語と一緒に痰を吐きまくるから
ユニクロを着た老人たちの血圧は上昇し
戦争体験を折っては飛ばし始めたがいっこうに届きはしなかった
こんな話は聞かせたくないと赤ん坊は泣いて母親の耳を塞ぎ
車内アナウンスはただただ弁解と謝罪を繰り返す
ヤスデは重荷だった自分には毒も牙もないからだ
いつもこんな馬鹿げた人間たちを運ばなければならない
月は笑って観ていた娯楽番組なのだ地球は
サラリーマンの脱皮が始まった
未満の蝶は卑猥さをヒラヒラさせながら駄洒落ることもなく
原子力に対する歪んだ愛を語り出したから
女は流星のように閃いて恋人を刺殺すると
車内を駆け抜け笑い声だけが風になった
あとには山椒魚の卵のようにゼラチンに包まれたひらがなの山
小面を着けた別の女が現れて短歌を火にくべ燃やし始めると
甘い匂いが漂い始めたがそれはすぐに人の焦げる匂いに変わった
遠近法だけが人々を金魚鉢の日常に浸らせる魔法だと
平和の鳩は双頭の鷲に内臓を喰われながらもにこやかだった
ああ小面を外してもあまり変わらない顏の女は乱れ髪
「君死にたまふ ことなかれ主義者め! 」
何かに似ていると思っていた音がSP盤のノイズだと気が付き
幽霊というほどでもない物忘れが激しかっただけの老人たちが
ぼんやりと煙のように消えて逝くと物語は脱線を始め
車窓から一斉に櫂を突き出して電車は次元を超えて往く
ワームホールの向こう側でヤスデはミミズと恋に落ち
超新星の爆発的祝祭のもと天使たちも錐揉みしながら落ちて往った
その果てに 水中に燃える古い駅舎がある
封印された恋情を物語の中の友情に置き換えた
年老いたジョバンニはカムパネルラを捜し彷徨っている
少年という小箱へそっと仕舞った妹を求め無垢な修羅がやって来た
ああカムパネルラの首筋に激しいキスを 修羅に渡してなるものか
逃げよう! これを読んでいる誰かの頭の中へ
ポイントを切り変えて文字の上を素足で走って
遠心力が欲望の鎌首を擡げさせる肉の密度の湿り気に
またひとりサラリーマンの脱皮が始まった
さあ裸にオナリナサイ爆弾にオナリナサイ
オナリナサイオナリナサイオナリナサイオナリナサイ
青筋立ったこめかみに少女の真っ赤な唇 冷たい銃口
嘘か真か麻薬か砒素か
文字撒き散らし彗星電車は矢のように脳裏を貫く夢
ああ永劫回帰線を越えて駅ビル調剤薬局へ
もるひねよりもひねくれてひねもすのぼりくだりかな



               《快速処方箋:2014年9月27日》








自由詩 快速処方箋 Copyright ただのみきや 2014-09-27 20:42:47縦
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