ぼくらが旅にでない理由
メチターチェリ

天気予報によると午後から曇り、ところにより雨、らしい。傘を持っていくか一瞬迷ったのち、会社の置き傘を頼ることに決めた。階段をおりて、自転車に乗って、駅まで。いつもの道をペダルを漕いで進み、通学の児童は集団であふれた。国道を東へ、車は急いで、あぶないから前を向いて。みどりのおばさんは大きな声をあいさつに変えて、黄色い手旗をひらめかす。青を赤へ、赤を青へと、循環していく街の景色だ。隙間なく軒たつ家々が視界を流れ、家族だな、と分かる。路地を入った更地にも新しく基礎ができてきて、進捗を見守る作業員数名、つなぎに汗をたくわえながら、ほどよい固さにコンクリを溶かした。路側帯を通って歩く人。道なりに、商店は開店の準備を始める。干上がった舗装路に打ち水をまいて、街路樹、野立て看板、プランター、引っ越しのトラック。台車が荷物を運び、ぐずぐずしている人を見てはいらいらしている。それでも順番は守った。駐輪場に停めて改札を抜けると、案の定人であふれているが、その中の一人として振る舞いながら遅れて来た電車にとびのる。


自由詩 ぼくらが旅にでない理由 Copyright メチターチェリ 2014-08-24 18:47:05
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