百鬼繚乱 < 1 >
nonya


ROKUROKUBI (ろくろ首)


夕暮れの観覧車に
絡みついた
わたしを解いて

BMWの助手席に
しがみついた
わたしを引き抜いて

あなたの吐息と唇が
辿った
うなじを縮めて

あなたの名前を何度も
歌った
喉笛を引き寄せて

わたしは女の形をした
哀しい色の器に戻るの




KAMAITACHI (かまいたち)


君の前髪を
そよがせるだけで
良かったのかもしれない

放置自転車を
なぎ倒す必要なんて
なかったのかもしれない

誰にも相手にされず
いつの間にか透き通り
ビルの狭間のつむじ風に
成り果ててしまった僕だけど

どんなに荒ぶろうと
コンクリートのだまし絵の中では
自慢の鎌もすぐに刃こぼれして

もう誰の身体にも心にも
かすり傷ひとつ残せやしない




JOROUGUMO (女郎蜘蛛)


給湯室の天井に
蜘蛛の巣がはったと
みんな騒いでいるけれど
それ わたしの溜息だから
気にしないで欲しい

人間関係って
蜘蛛の巣より厄介
みんな澄ましているけれど
がんじがらめの魂なんて
美味しくなさそうだな

もうそろそろ潮時かも

言い寄る男は多いけれど
糸のような柔らかな嘘を
張り巡らすのにも疲れたし
光る石も朽ちない葉っぱも
何も欲しくはない

本当に欲しいのは
本能がしたたる生臭い魂

欲情のてっぺんだけを食べるのが
わたしの贅沢
悦楽のまんなかで果てるのが
あなたの贅沢




OUMAGATOKI (逢魔時)


得体の知れない不安は
背中にこびりついて
人の危うい時間の中で
寄せては返す

見えないからと言って
何もいないわけではない
人の目はとても良く出来た
節穴のようなもの

たとえば昼の終わりと
夜の始まりの挟間から
にゅうっと突き出した
青黒くて細い指先に
震える背骨を掴まれたなら

人ではない何かが
見えてしまうかもしれない





自由詩 百鬼繚乱 < 1 > Copyright nonya 2014-08-24 15:17:12
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