誰そ
salco

明けにヒグラシが啼く
カナカナカナ…
 そそっかしい奴
夏の薄明は薄暮に似て
あの個体は感知できないのか
明けは涼しく暮れは蒸すのに

カカカカカカ…
ほら、また啼いている
確かに夜明け、優美な東雲
目覚まし時計は5時を指して
街は清らかに眠っている
 でも鏡越しなら?

明るいのは西、文字盤は7時
車が自転車が通り抜け
行き交う靴音も人声も覚えず
人の目玉もしばしば
鏡を嵌めた窓のようなもの
視力と恣意の主が棲む

カナカカカカカカ…
セミの感覚器が正しく
現実は午後7時なのに
私の狂気が逆さに読む
作り変えられた世界
思念は最強の現実味を帯び

世界が或いは裏返っている
カナカナカナカカ…
明けにヒグラシ啼く時は
ひょっとして、未去過来
亡い者達が在り帰る
土地の来歴、生滅の堆積
 ほら、廊下が軋んだ


自由詩 誰そ Copyright salco 2014-08-23 22:29:32
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