八月の欠片
nonya


GIRAGIRA

あの頃の僕の瞳は
油の浮んだ水溜り
空も街も人も季節も
虹色に濁って見えた

今にも分解しそうな心を
繋ぎ止めていたのは
少し哀しい臭いのする
ギラギラ



KURONEKO

柔らかな曲線で閉じられた
暖かい真っ暗やみ
密やかな身のこなしで
人の時間に潜り込み
ふたつの小さな月で
人の暮らしを涼やかに眺める



WADACHI

去年の夏の戯言の
文字を入れ替えるだけで
今年の夏の戯言になるという
わたしの薄っぺらな現実

綺麗に足跡を残そうと
格好つければつけるほど
泥濘にはまってしまうという
わたしの安っぽい真実

浮き足立った今日を
いくら繰り返しても辿り着けない
わたしのあした

遠ざからない昨日を
いくら眺め返しても見つからない
わたしのわだち



UTSUWA

小さすぎて
すぐに溢れてしまう器
ヒビが入っていて
いつも漏れてしまう器
そんな出来損ないの器を
人と呼ぶのなら
際限なく注がれるのは時で
底に辛うじて残るのは
滓のような後悔



RASEN

何かに熱中している時の
ちょっと尖った唇の形も
好きだったけれど

見た目ほど器用ではない
細くて長い指の形も
好きだったけれど

本当に欲しかったのは
君の中の螺旋
君の中の柔らかな設計図



MOUSHOBI

あらゆる雲を排除して
空が真夏を熱唱する
草花は項垂れて
鳥の囀りは蒸散して
聴衆は身動ぎもしない影だけ

あらゆる朝を排除して
夜明けは真昼に接続された
炎天下の庭に水を撒く
君の溶けかけた肩越しに
架かった小さな虹だけが

略奪された朝への
ささやかな抗議




自由詩 八月の欠片 Copyright nonya 2014-08-09 13:29:41
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