下北半島のみどり
馬野ミキ

福島のお祭りへのライブ参加を終え
皆東京に帰っていったが
俺とKはN子にタカりながら北を目指した
Kの友達が青森にいるという
各駅を乗り継いで下北半島へ
皆東京では無職の歌唄いだった

当初みどりは俺たちを歓迎している感じではなかったが
その夜皆で人生について語っているうちに打ち解けた
人生の意味について、宇宙とは何か 若かった俺たちはよくそんな話をしていた
みどりがトイレに行くとき、俺の頭をポンと叩いた
これはとても素晴らしい合図だと俺は思った

次の日みどりが仕事に行った後俺は顔の産毛を剃りはじめた
俺は毛が濃く眉毛なんかほっとくと繋がってしまいそうである
つまり、かっこつけようという想いだ
Kが俺をからかう
みどりはKの元彼女であった

その夜俺はみどりと二人で手をつないで出かけてしまった
N子は俺のことを好きだという噂があった
少し遠くで救急車の音がしていた
N子が酔っ払って路上で寝ていたので通報されてしまったらしい
まあ東京ならその辺で寝ている人はめずらしくもないが・・
N子はヒッピーの生き残りのような女だった

N子は次の日東京に帰った
俺とKはすすきの原っぱを全速力で走っていた
自分たちよりも背が高く、もし仮に崖でもあったなら俺たちは死んでいただろう
夜はKに外出してもらいみどりとセックスをした
はじめて女性器への恐れが消えた瞬間である
俺たちは交互に子供のようになった

翌々日、後ろ髪をどうにかする想いで俺とKは東京に帰ることにした
一文無しだったのでみどりに50円もらった
50円でうまい棒を5本買いヒッチハイクをして東京に帰った。





東京に帰った俺はファッションヘルスのボーイの職についた
池袋サンシャイン通りの雑居ビルの最上階からの見晴らしは気分がいいものだった
15000円の日給は試用期間中の一ヶ月は10000円ということで騙されたなあと思った
ボーイたちは夜、客と嬢がプレイする個室で眠った

毎日電話ボックスからみどりに電話をかけた
今勃起してるでしょう?といい当てられるのは楽しいものだ
親のすすめで自衛隊の男と結婚させられそうになってる 私を連れ去ってくれる?
俺は連れ去る自信について分からなかったが
お金を貯めてもう一度会いに行くと言った

ボーイの仕事は一週間でクビになった
俺が女の子たちに敬語を使わないという理由だった
俺は俺との会話のなかにくつろぎを見出してもらおうとあえてタメ口を使っていたのだが
古株が気に入らなかったらしい
彼女たちは持ち上げてほしかったのだろう
俺はそんな関係は悲しいと思ったが・・
とにかく、一週間分の給料を受け取り俺はアパートに帰った
アパートにはKがいたので二人で麻雀をした
お互い豪快に積み込む
金がなくなったらプライドを賭けようと言って勝負した

クリスマスにフリーマーケットで買ったワンピースを送ったがサイズが合わなかったそうである
この頃からみどりは俺への愛を失せてきたのではないか・・
俺が送った詩を「これほんとにミキが書いたものなの?」と疑ったりした

翌年の春
俺はもう一度みどりに会いに青森に向かった
駅からタクシーで一万円を越えた
みどりは「ただやりたいだけなんでしょ?」と言った
二人の関係はすでに壊れていた
次の日、鍵を閉められ
追い出され
俺はギターを壊して
どしゃぶりの雨が降る電話ボックスの中で朝まで歌を歌って
東京に帰った。


自由詩 下北半島のみどり Copyright 馬野ミキ 2014-08-07 13:54:17
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